ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Start Code -始まりの暗号- ( No.19 )
- 日時: 2009/12/14 16:40
- 名前: 威世-Ise- (ID: GlcCI1C/)
Code5 嘘の笑顔は少年の心に何を残す?
夜櫃の質問に長身の男は思わず吹き出した。
「ハハッ。面白い子だな。牛乳をたくさん飲めば伸びるんじゃないかな?」
男は笑いながら夜櫃の頭をポンポンと軽く叩いた。
「牛乳か……。俺、乳製品無理なんだよ……」
夜櫃は肩をガックリ落としていた。
身長の小ささを気にしているようだった。
「大丈夫。男の子は後から伸びるから。……で、ちょっと質問してもいいかい?」
男の表情が真面目に変わる。
それを見た夜櫃の声も真剣一色だった。
「別にいいけど、その前に名乗ったらどうだ?」
男は「あっ、そうか」と呟き、笑顔で答える。
見覚えのある笑顔。
屡祈の笑顔がそうだった。
とっさに繕った嘘の笑顔。
「俺は九十九。珍しいだろ? きゅうじゅうきゅうって書いて九十九だ」
九十九の目は夜櫃に「お前も名乗れ」と、そう言っていた。
「俺は……夜櫃、だ」
そう答えた瞬間、九十九の表情が一転した。
嘘の笑顔は本物の笑顔へと変わっていく。
笑顔と言っても、優しい笑顔ではない。
冷たく、何もかも見え透かされているような、そんな笑顔だった。
「そうか。君が、夜櫃君だったのか」
そう呟いた九十九の声に優しさは微塵もない。
夜櫃は背筋が凍るのを感じた。
「残念。君に質問する必要がなくなったよ」
「な、なんでだよ」
九十九は、またあの笑顔を浮かべ答える。
「俺が質問しようとしたのは、“この付近で黒髪の紅い瞳をした小さな少年を見なかったか?”ってことだよ。夜櫃君?」
黒髪の紅い瞳。
まさしくそれは夜櫃のことだった。
「お前……特殊警察の奴か!? 追ってきたって言うのかよ」
夜櫃は悔しそうに下唇を噛む。
「正解。可愛い部下に頼まれちゃってね。君を探してきてくれって」
逃げろ。そう本能が伝える。
夜櫃は一歩ずつ後退する。
それと同時に九十九の足も動く。
お互い目を離すことは出来ない。
赤い瞳と蒼の瞳が重なり合う。
夜櫃は腰元の銃を取り出し、空に向けて発砲する。
一瞬九十九の気が逸れた隙に背を向けて走り出す。
「なるほど。一般人よりは頭の回転が良いみたいだが……俺には通用しない」
九十九は走る夜櫃のあとを追う。
追うと言っても普通の速さではない。
尋常でない速さだった。
後ろに迫る気配に夜櫃は焦りを感じる。
「っ……。人間かよ!!」
そう呟いた時だった。
「ゲームオーバーだ。夜櫃」
耳元で囁かれる冷たい声。
さっきまで後方にいた九十九の顔が今は夜櫃のすぐ傍にあった。
「何っ!?」
抵抗する暇もなく、夜櫃の手から銃が落ちる。
掴まれた腕はどんなに力を入れても動かない。
身動きの取れない夜櫃は九十九を睨みつけた。
「お前、何者だよ……ほんとに」
「ん?部下を世界一愛する特殊警察だよ」
そういけしゃあしゃあと答える九十九には夜櫃にはない余裕が有り余っていた。
「お前、いくらガキ相手だからって余裕ぶっこいてんなよ」
そう言った夜櫃の顔にはさっきまで微塵もなかった余裕が存在した。
「ゲームオーバーはどっちかな? 九十九さん」
「これは屡祈達が苦戦するだけあるな」
夜櫃の腕には小さな小刀が握られ、その刃先は九十九の首元に触れていた。
「子供をなめちゃ駄目だな……」
九十九の声に路地にいた猫がニャォと一声答えた。