ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Start Code -始まりの暗号- (新型インフル感染 ( No.26 )
日時: 2009/12/26 10:27
名前: 威世-Ise- (ID: vQ7cfuks)

Code6 力は孤独を創り出す

猫の声は静かな路地裏に響き渡る。
夜櫃と九十九の間には冷たい空気が流れていた。
「手を離してもらおうか? 九十九さん」
夜櫃のその言葉に九十九は「うーん……」と唸りながら夜櫃の腕を離した。
その様子に力の入っていた夜櫃の腕の力が緩む。
「ダメダメ。そんな隙だらけじゃ」
九十九の声が耳に響く。
夜櫃の警戒が弱まった隙を見て、九十九が彼の小刀を蹴り落とした。
「チッ」
背後に回った九十九に目を向けようと後ろを振り向く。
だが、そこに九十九の姿はなく黒猫が一匹いるだけだった。
「マジかよ」
そう思ったときには遅かった。
再び夜櫃の背後へと回った九十九は彼の首元に手刀で強い刺激を加えた。
「俺の勝ちだよ。夜櫃」
目の前の景色は歪み、身体から力が抜けていく。
目の前の九十九の表情に疲れは全く見えなかった。
彼にとって自分との戦闘なんてどうでもないと、そう言われたような気分に夜櫃は悔しそうに顔を歪めた。
力の抜け、倒れこむ夜櫃の身体を九十九が優しく支えた。

—ここは……
またあの同じ夢。
しかしいつもと違うのは目の前に広がる風景だった。
あの知らない男も屋敷らしい建物も目の前にはない。
あるのはすぐ目の前に広がる鉄柵と自分の手と足に付けられた重い鎖だった。
そして子供の自分の目には生気がなかった。
生きる気力を失った悲しい瞳をしていた。
そしてあの足音が近づく。
静かに響く革靴の音。
そして現れたのは、前の夢にいた紫の髪をした軍人だった。
冷酷な瞳は変わらず。
その瞳にさえ怯えることができない死んだ自分の心。
「お前が我らの求めていた神だ……。まだ死なれては困る」

お前は何者なんだ。
そしてこれは……俺の過去なのか?
分からない……分からないんだよ——

ハッと目を覚ました時、目の前には自分の瞳を覗き込む黄金色の瞳があった。
「起きた!! 屡祈、起きたよ!!」
意識の朦朧とする中、夜櫃はゆっくりと腰を上げた。
「夜櫃ぅぅー!!」
状況を理解する時間もない。
腰を上げた瞬間目の前が何かに塞がれた。
どうやら屡祈が夜櫃に抱きついているようだった。
「お前!! 離れろ!! 窒息死させてぇのか!!」
夜櫃の怒鳴り声が響き渡る。
「ちょっと屡祈!! その子怪我してんだから、止めなさい」
少女の声と共に屡祈が渋々夜櫃から離れた。
状況がどうも理解できない。
目の前で少女に文句を言う屡祈。
初対面の黄金色の瞳の少女。
そして見たこともない部屋。
いったい今、自分はどういう状況にあるのだろうか。
夜櫃はまだ頭痛の残る頭で必死に考えていた。
(俺は確か、九十九と戦って負けて……ん? ここから記憶がねぇぞ)
考えても整理のつかない頭を、夜櫃は抱えて自分の寝ていたソファーにぐったりと倒れこんだ。
「何だってんだよ……」
屡祈と少女の言い争いはどんどん悪化していく。
しかも内容がこうと来た。
「屡祈、貴方はもっと考えてから行動しなさいよ!! 怪我してる子に抱きつくなんて非常識よ」
「だって、夜櫃君可愛いでしょ!? 抱きつきたくなるじゃん!!」
その言葉を聞き、夜櫃はさらに脱力していた。
「ま、まぁその気持ちは分からなくないけど……」
(え、そこ認めちゃうわけ?)
夜櫃は密かに心の中でそう問いかけた。
屡祈と少女の会話がずれかけたその時、近くの扉が開き、鶯叉が入ってきた。
「ん? ありゃ、君はあの時の子じゃん。目、覚めたんだ」
鶯叉は屡祈達を完全に無いものとし、話しかけてきた。
やっとまともに話が出来そうな気がして、夜櫃は思わず彼に抱きつく。
「鶯叉さん!! 詳しい話、聞かせてもらえませんか」
夜櫃の普段ならありえない行動に鶯叉は周りを見渡す。
そして「なるほど」と一言呟き、夜櫃の頭を撫でる。
「こいつらじゃ話になんねぇもんな。お前の看病をこいつらに任せた俺が馬鹿だった」
そう言って言い争い続ける二人を遠い目で見つめた。