ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- ACT1:crazy hero 〜陽気な仲間たち〜 ( No.1 )
- 日時: 2009/11/23 14:43
- 名前: 壱祈 (ID: 4fvD1.Kt)
—偶々あの日はお母さんもお父さんも居なくて、私一人だったから。だから、普通にインターホンが鳴って普通に返事して小走りで走って玄関へ行ったら——。
『こんにちわー、学生テロリストデスvv』
—分厚い武装に顔を隠したマスクをした数人の男が立っていた。—
第1話:捕らわれた少女—三枝 愛美
—一瞬、何を言っているか分からなかった。唯、相手の無気味な服装と機械のような声に私はびくびくしているしかなかった。その場から逃げることもできなくて、声を出す事さえもできなかった。
『三枝 愛美サン、デスネ?』
『年齢十九、私立正翔学園大学在学中。部活動なし。父は不動産屋、母は専業主婦、祖父と祖母は昨年死去』
淡々と私の詳細を話しだす、後にいた防護服の怪しい人たち。彼らも機械音の声で本当の声が聞こえない。するとまた後ろにいた防護服の、今度は銃を手にした2人組が前に出た。今度は防護服などは来ていない、普通の制服を着た男の子2人組だった。一人は学ランに黒髪の落ち着いた感じの少年、もう一人はブレザー服を着崩した明るい感じの少年。
『これより、君には『学生テロリスト』のメンバーとして入ってもらう。下手なマネをすれば、容赦はしないと考えてもらいたい』
『まあ、手荒なことはしねーからよ。そっちが大人しくついてきてくれればいいことだ』
やっと普通の人間が出てきたかと思えば、今度は銃を持っていた。しかも彼らはそうしゃべりながら銃口を私に向けていた。—怖い、怖い。その思い一筋で、私はやっと口を開いた。
「…父は、父と母はどうなるんですか…」
『心配は無用。お前の両親には我々から伝える』
「そんな……っ!」
するとガっと私の両腕をつかみ、瞬時にカッと手錠をつけたブレザーの少年。それを見た時私が抵抗をしようとバッと手を上げると、瞬時に学ランの少年はその手を掴んだ。そしてキッと私を睨みつける。その目に私は押されてしまい、ブルブルと手を下ろす。
『よせよ、相手は女の子だ。あんまし怖がらせなくてもいいだろ?紫騎(しき)』
『…関係ないだろ、これは仕事だ』
紫騎—という学ランの少年は掴んでいた私の手を離し、さっと家から出ていった。そして防護服の人たちも出て行き、
『さてっと、行くか。三枝 愛美さん?』
「……(ごめんね、お父さんお母さん)」
ぱっと私の背中を押して、私は彼らの言う事を聞くしかなかった——。
- つづき ( No.2 )
- 日時: 2009/11/23 17:11
- 名前: 壱祈 (ID: 4fvD1.Kt)
【いやぁあああ!!いやあああああ!!!!】
『抵抗をするな、撃つぞ』
【ナミ!!やめてその子だけは…】
『五月蝿イ』
—政治が混乱してから、私の近所では子供の悲鳴や親の泣き叫ぶ声が聞こえるようになっていた。次は私、そう私もずっと考えていた。親は口には出さなかったが、私を相当心配していたらしく学校にも行かせなかった。とにかく外には出さなかった。
この世界から、「逃げる」ことなんてできない。そう思っていたの—
第2話:少年の心
『入れ』
そう言われ、私—三枝 愛美は家の門の近くに停まっていた大きなトラックに乗り込んだ。まるで昔の軍隊が乗っていたトラックらしく、中には手榴弾が入った箱や銃がいくつも入った箱がある。私はブレザーの男の子に促され、古びたソファのような椅子に座った。彼は木箱の上に座った。私と彼が入ると、バタンと扉が閉まり防護服の人と学ランの男の子は前の席に座った。
「…私を、」
『?』
「私を、どうするつもりなんですか。私は武術も知能もありません、戦いなんてもっての外です」
『……そんなもん、口だけさ』「…ぇ?」
するとブロロンとエンジン音がし、トラックが動きだした。彼はそれを確認すると、
『…呆れたよ、この国には。価格変動とか総理大臣が死んだとかで政治が狂って、政治家なんてバカみたいだ。今じゃあ平気で子供が自殺したり人殺したりしてる、ってーのに大人は何もやってくれない。…くっせえ世の中だぜ、そう思ったら殺しでも何でもできたよ。あいつらを見返してやろうってな』
「……」
そよ風が窓から流れ込み、少しだが気持ちがいい。すると彼はぱっと私に手を差し出した。
「え?」
『今から仲間になるんだ、名前ぐらい教えてやるよ。俺の名前は薫(かおる)、十九だ』
「十九…っていうことは、私と同じ大学生?」
『あぁ。まあ、これは一種の軍服みたいなもんだよ。気にすんな』
「そう、…ですか。でもそれ、間違ってると思います」
『…』
「私は、正しいこととか間違ってることとかそういう事を区別するような権限も権力も持ってません。確かに今の現実はひどいものだと思います。でも、貴方方がやっていることはそのひどいことと同じことなんです」
『…あぁ、そうだ。でもな、もうこの集団の中に入っちまったらしょうがねえんだよ。あのお方が居る限りは…』
「(あのお方?)あの、あのお方っていうのはどういう——
—その時、バババババッと銃声が響き渡りガガガンッといくつもの穴が開いた。私は怖くて目をつぶろうとした時、バッと入口の扉が開いた。そこには、返り血を浴びた防護服の人たちが現れた。いきなりの事に驚いた薫君は、
『どうした!何があった!!』
『はぁはぁ……、襲撃だ。敵からの襲撃を受けている!逃げるぞ!!』
と防護服の人が私の腕を引っ張り、外へと連れ出した時。ドシュッと風を切る音がし、私は思わず目をつぶった。ヌチャッと嫌な音がしたかと思うと、私を引っ張っていた力が弱まり、やがて消えた。
「…ぇ…?」
銃声がやみ、引っ張っていた力が消え私は瞼を開けた。すると武装をした防護服の人たちを一気に素手で蹴散らしていく一人の——女性。
『なっ、お前は—ぐほぉぉっ!!』
「はいはい、慌てなさんな。ってか動くな」
というと女性は銃を薫君と紫騎君に向けていた。いつの間にか防護服の人たちは全員倒れていて、薫君と紫騎君しか立っていなかった—。
- つづき ( No.3 )
- 日時: 2009/12/05 00:23
- 名前: 壱祈 (ID: ugVnR6s3)
—殺したいほど憎んだ。殺したいほど叫んだ。
ダカラ俺ハ……刃ヲ向ケタ—
第3話:オンナ
「…—え…?」
—何?一体どうなっているの…。
恐る恐る私は足元を見た。そこには、無残にも体から大量の血液を流して倒れている防護服のひとがいた。顔はマスクのせいで見えないが、その体から生気が見られない。ぬちゃっとした気持ち悪い感触が私の足元から伝わる。
『…ぉい、聞いてねえぞ』
長い沈黙の中、やっと彼がしゃべり始めた。薫君、私と親しくしようとしてくれブレザーの彼だ。手には銃を所持している。紫騎君もベルトに下げていたナイフを取り出した。
『…まさか、連行中に襲撃をしてくるとはな。だが馬鹿な奴だ、たった一人で俺達の前に現れるとは』
紫騎君はずっと女のひとをにらみつけていた。だけど、女のひとはそれに目もくれずににっこりとした表情で私を見ている。…え?
(私…?)
『貴様が俺達学生テロリストの邪魔をしていることは分かっている。仲間がいるらしいが、どうせただの凡人のガキだろう。俺たちの前に出たこと、そして俺たち学生テロリストの邪魔をしたことを後悔するんだな』
そういうと紫騎君は地を蹴り、女のひとの元へ駆けて行った。それはまるで何かの動物のように恐ろしく早く、到底普通の人間では見えないスピードだった。そんな彼の行動に驚きと恐れを隠せない私、と次の瞬間。
「…出番だぞ、ゴルゴ」『了解』—バババババッ!!
紫騎君のナイフが女のひとに刺さるか否かの時にその銃声は轟いた。連射の音と共にバババと撃たれる衝撃で倒れていく紫騎君。それはまるで、何人かの人に殴られているような光景だった。倒れゆく紫騎君、もちろん目の前にいた女のひとには彼の返り血が無残にも顔や体の至る所に飛び散り、スローモーションのように彼は倒れ地へと転がった。
『!!!!』
すると血を流して倒れ、まだ息もしている紫騎君の頭をまるでゴミを踏みつけるように右足で力一杯踏みつける女のひと。その表情からは、優しさや憐れみなど感じられない。—狂喜の笑み。女のひとは口を開き、薫君にこう告げた。
「…学生テロリストだか何だか知らねえが、…俺の陣地に入ってくるのが許さねえ。ったく、女まで手に掛けやがって…てめえらがやってることなんざぁ俺には興味ねえんだよ。公開処刑だぁ?はっ、笑わせんじゃねえぞこの屑が。てめえも、こいつみてえになりてえのか。よぉ、学生テロリスト幹部・一条 薫(いちじょう かおる)」
『!!』
—一条 薫…?もしかして、薫君の本名…?
驚きと焦りの表情で女のひとを見る薫君。そんな彼の表情はさっきとはうってかわって、まるで鬼のような怖い顔をしている。
『…お前の要件はなんだ』
「は?」
『要件を飲む。その代りに紫騎w「嫌だね」』
薫君が紫騎君を助けようと要件を飲むという言葉に女のひとは否定の意をこめてそう言った。
「どーせてめぇらのやることだ。俺とこの女捜して襲撃しようって魂胆だろ。しかもその時はかなりの武装と戦闘要員をつれて、だ。そんなもんされたら、こっちまでめーわくなんだ、よっ!!」
そんなどす黒い声とともに、彼女の足元で倒れていた紫騎君の頭を——蹴った。ひどく濁った血が辺りに飛び散り、私の靴までも汚れた。紫騎君はうっと苦しい声をあげて、また転がる。
—…何これ、どっちが敵なの…どっちが味方なの…。
『…くっ』
「だがひとつだけ」
と女のひとは紫騎君を見下しながら言った。その言葉に薫君は顔をあげる。
「ひとつ、条件を飲んでくれたら許してやる。この条件を飲めば、この偏屈なガキも逃がすしお前も逃がす」
『条件…、それで助けてくれるのか』
「あぁ。まあ、てめえらの言い方じゃ逃げるって言った方がいいだろうがな。ほれ」
と女のひとはポケットからカプセルを取り出し、それを薫君に渡した。白と赤のカプセルで、中に粒状のものが入っている。するとすかさず女のひとはポケットから小型の銃を取り出し、それを薫君の額につきつける。
「!」
『…どういうことだ』
「…なぁーに、簡単なことだ。その薬をちゃんと飲んでくれたら、そいつを解放するって話。ちゃんと飲んでくれなきゃ…、こいつと一緒にドンッだぜ?」
—何よそれ……。この人、何考えてるの…?
薫君は女のひとの言葉を聞き、すぐにそのカプセルを飲んだ。女のひとはそれを確認し、すっと銃をポケットに入れた。
『…これで、…いいんだな』
「あぁ、解放する。そのガキもつれてけ」
と女のひとは倒れている紫騎君を指差した。ほのかだが紫騎君にはまだ息が…ある!薫君はすぐさま紫騎君の傍へ行き、立ち上がらせようと紫騎君に声をかけたその時——。
—ドシュッ「…ぇ……?」
突然薫君の背後からおびただしい血が大量に噴出した。それを同時にニヤッと紫騎君が笑みを浮かべる。驚愕の表情の薫君、妖艶な笑みを浮かべる紫騎君。対照的な二人の少年の姿に私は思わず、
「ィヤアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアア!!」
−さけばずには、いられなかった−
- つづき ( No.4 )
- 日時: 2009/12/07 13:49
- 名前: 壱祈 (ID: VczlP8hY)
—夢、…であってほしい、そう願った。こんなに願ったのは、初めてだった—
第4話:はじめまして
—薄らとした体の痛みで、その日の朝は眼が覚めた。全てが夢であってほしい、そう心から願った。でも現実はそういかなくて、私は見知らぬ部屋のベッドで眠っていた。眼を覚ますとまず体の節々が痛くて、まるで筋肉痛のように全体の運動を司る肉体が疲れ果てていた。
それは精神も同時に起こっていて、立ち上がるのにも苦労をした。元々なのか、部屋の空気は篭っていて窓は閉め切ったままだった。今の現実、そうそう窓を開いて部屋の換気等をしている家や建物は見られない。そんな一つ一つの部屋の現状を見ていれば、ここが「普通の部屋」だということを私は直ぐに感じた。
ガチャ——ッと私が眠っていた部屋の扉が開いた。金属が撓る音、そしてコツコツと響く誰かの足音。こんなにも自分自身の心臓が早く動くのか、そんな事を考えながら私は近づいてくる足音をずっと聞いていた。掛けられていた毛布をぎゅっと握り、ずっと扉を見ていた。
「…十九、学生か。」
ふっと女の人の声が聞こえ、ぬっと背の高い女性が部屋に入ってきた。さっき私を助けてくれた人とは違い、長い黒髪を上で縛っており背中には彼女のものらしいライフルを装備している。全身を黒と赤で纏った彼女—それが後に「鬼朱(キシュ)」と呼ばれる事になった仙堂 律華(せんどう りつか)『ゴルゴ』だった——。
「…」
「心配はするな、ここは安全な場所だ。辛うじてお前に怪我はない。心身的にも大丈夫だろう」
まるで軍人を思わせるような彼女の口調に私は、微妙に緊張をしながら口を開いた。
「あの、…貴方が私を…?」
「いや、直接的にお前を助けたのは私じゃない。だが生憎、お前を助けた人は今外へ出ている。直に帰ってくる」
「そうですか…。あの、ありがとうございます」
と私はベッドから降りて、彼女に頭を下げた。少しよろけたが、なんとか自分で体勢を整えた。彼女はふっと笑みを零し、だが直ぐに険しい表情で私に言った。
「だが、安心するのはまだ早い」「え?」
「追手が来る可能性がある。テロリストの仲間にしようとしたお前を取り逃がし、そして幹部までも殺された。この状況では、お前が狙われても不思議とは思わない」
「…、そんな」
彼女のただ険しい表情に、私は肩を落とすしかなかった——。
- つづき ( No.5 )
- 日時: 2009/12/08 15:32
- 名前: 壱祈 (ID: /GuZTiav)
何故大人しくついていったのかわからない。
あの日は唯、ムシャクシャしていただけだった。
いつもどおり人を殴って、金巻上げて恐喝して。
思いのまま人殴ったら簡単に血が出て、
簡単に人は倒れて、…それから動かなくなった。
罪悪感。その時、初めてそんな感情に囚われた。
—だからかもしれない、——あいつについていこうと思ったのは…。。
第5話:こんにちわ
* * * * * *
「んで、情報はどうだった。生憎、俺は何も出ませんでしたーっていう純粋無垢な態度で言われてもゆるさねえ。ってか半殺しの刑だからな」
「…(この状況でそれ言うのかよ、あんたって奴は)」
—2人の周りには、たくさんの武装に身を包んだ防護服が立っていた。愛海を狙った防護服たちとは違い、厳重な装備をしており持っている武器も刃系統から銃系統まで幅広くある。そんな装備をしている防護服たちは、2人の若者を取り囲んでいた。
『フン、「負け犬」如きが我ら学生テロリストへはむかうとは。よく俺たちを敵に回そうと思ったな』
「生憎、俺はあんたらみたいなチンケな下っ端雑魚の相手してる暇はねえんだ。もとはといえば、てめえらテロリストが仕掛けてきたことだろうが」
『全てはあの方のお心のままに。あの方に歯向かう者は、容赦せん!!』
すると先頭に立っていた防護服がピッと右手を挙げた。それと同じ瞬間、後ろにいた何人もの武装をした防護服が一気に二人に襲いかかってきた。
「今日はゴルゴはアジトで待機だ、被戦闘員の療養をしている。パシリ」
「わかってるっつーーのっ!!」
バシィッと一人の少年が走ってきた防護服に蹴りを一発入れる。それはちょうど武装をしていない場所にヒットし、次々に少年は蹴りからパンチまで繰り広げる。荒々しいが、それはまさに不良の喧嘩のような戦闘だった。
『なっ……!!武装もしていない人間がっ』
と指揮していた防護服が驚き間もなく、いく人もの武装をした防護服は倒れていた。少年は息つく暇もなく敵を蹴り散らかし、それを見ていた女性は、
「…ふむ、倒した数は十三名。この中で防御をしたのは約七名。まだまだ防御の技が生ぬるいが、スパイとしてミスをしたことは大目に見てやるか」
と小言を云いながらスッとポケットから試験管のようなものを取り出した。その中にはえたいのしれない紫色の液体が入っている。
「これでええええ…ラスト!!」—バキッ
少年が最後の一発を防護服に浴びせ、残るは指揮をしていた防護服の戦闘員だけになった。戦闘員の持っている刃は若干だが震えている。
「うしっ、残るは指揮官だけだよな!」
パンッと拳と掌を合わせ、やる気満々な少年。だが女性は、
「まて」
「え?」
「最後の大物だ。ここは俺が作ったやつで仕留めてやる、光栄だと思うんだな」
「なっお、おい!!「お前は先に帰って今日の晩飯でも作っとけ。後洗濯物と掃除、わかったなパシリ」…〜〜〜〜!!了解!!」
すると少年はぱっと後ろを向いてどこかへと走り去って行った。「さてと」と女性は持っていた試験管を指揮官に見せた。
「これが何か、わかるよな?」『!!』
その試験管を見た指揮官は驚きの余り声を無くす。
「やっぱり…、さすがテロリスト。やることえげつねえー」
『や、やめろ!!その試験管を壊せばお前も「わかってるっつーの。だが、このことが知れたらお前のボスどうおもうだろーなぁー」!!』
するとパパッと何者かが指揮官の手と足を抑え込んだ。二人とも学生服に身を包んでおり、瞳がどんよりしている。まるで何者かに操られているようだ。二人の姿を見て指揮官は驚く。
『なっ!!な、何故にっ!!まさかお前が…』
「公開処刑よか、立派な死に方だと俺は思うぜ。最高だと思えよ?二人の幹部と一緒に楽に一撃で死ねる。そう思ったら気も楽になるんじゃねえの?」
『黙れ!!しっかりしてください幹部様!』
「あー無理無理。そいつら俺の指示で動いてるから、あんたみたいな奴の言葉じゃ到底無理無理」
と言って女性は試験管を指揮官の足元に置いた。その行動に指揮官の体が強張る。その様子ににぃっと女性はいやらしい笑みを浮かべ、ぱっと後ろを向く。
「じゃ、頼むぜー……『薫』」
そういうと学生服の一人がバキッと足元にあった試験管を己の足で粉々に砕いた。するとボボボボボッと何発かの火花が散り、一気にその場に爆発が起こる。颯爽とその場を去っていた女性は立ち上る煙を見ながら、
「…ほんっと、えげつねー趣味してんなぁ……。あの変人サディスト博士は」
- つづき ( No.6 )
- 日時: 2010/03/06 18:10
- 名前: 壱祈 (ID: l3n4kEnb)
[…そうか、幹部2人がやられたか]
—真っ暗な世界、そこに指す一つの光。その光の中でたたずんでいる一人の男性。茶色いトレンチコートに古ぼけた茶色い帽子、顔さえは見えないが背格好と声から彼が「男性」と判る。
「…はい。一条 薫、間宮 紫騎。両名ともあの女にやれました」
「女…、か。つい最近までよく働いていた国家とはまた別枠の厄介もんだな」
くくっと彼は楽しそうに顎をさすりながら光が差す方を見ていた。彼の部下らしき人物は闇にまぎれており、姿がわからない。だが上司のおかしい行動に、
「…どうされますか。幹部2名を失い、確実にあの女やその仲間のせいで我々の戦力は失われつつあります。さらに我らの戦力の一部を奪ったのもあの女です」
「戦力……、あぁ。三枝の愛海ちゃんね」
するとふっと彼はポケットから綺麗な石のペンダントを取り出し、それを部下に見せるように首からかけた。
「…彼女なら大丈夫だよ」「…は?」
「大丈夫。今は向こうの世界にいるかもしれないけど、どっちみち彼女の居場所はこちらだ。…あわてるひつようはないよ」
自信満々にそういうと彼はパンッと手をたたいた。
「さて、…そろそろ食事の時間にしよう。部下たちもお腹をすかせているだろうし、彼らには今後とも頑張ってもらわないといけないしね。……『新しい日本』をつくるために」
ニタッと不敵な笑みを浮かべ、彼は光の差す場所から消えた。漆黒の闇に紛れ、ガチャガチャと機械音が鳴りやがてその光はすぅっと消えた——。
第6話:導きの温もり
—月明かりが『其の建物』を照らす。赤レンガ式のその建物には窓がいくつかついており、今は夜なので閉め切っている。
否、『この御時勢』ならば誰しも窓を閉めたくなるだろう。分けのわからない『独裁者の演説』や朝からいやでも聞こえてくる『銃弾の音』、そしてその銃に撃たれ死に行く『人々の叫び声』。全てを拒絶したい人間は窓を閉め、昼間でも窓を閉め切っている。
かつては総理大臣によって統一されていた『国家』も今では滅亡に等しい。何人もの政治家、おまけに内閣総理大臣まで公開処刑をされて政治家内で反発や逃亡などが起こった。「今のままでは、日本は『あいつ』の思いのままだ」、そう政治家は言うものの対処法がわからずにいた。
「…警察も警察とて、許しがたい経済状態だ。我々がちょこまかと動いていても、注意をする警察などいない。昔は落書きをしただけで起こっていた警察も、自分のためなら公開処刑も許すそうだ」
「……」
一つのテーブルを囲み、少年と少女が椅子に座っていた。一人の少女はライフルを背に腕を組んで、一人の少年は珈琲を3つのカップにいれて、一人の少女は悲しそうにうつむいていた。
「それよりもよぉ、こいつどうすんだよ。そりゃあ『学生テロリスト』の戦力をちょこっとつぶしたけど、一応『テロリスト』の仲間の候補なんだぞ!」
「それはアキチの考えることだ。私たちは彼女の援護をするだけ、そうだろうパシリ」
そう黒髪の少女—ゴルゴから言われるとパーカーの少年—パシリは「うっ」と息が詰まる。
「そ、そうだけど…」
「今は彼女の帰りを待つ、それでよいな?」
「…」
ゴルゴに問われた少女—愛海はコクンと頷いた。
「でもっ——「なんだパシリ、うるせえと思ったらお前の声か」
ガチャっと扉が開き、よれよれのコートに身を包んだ少女が家の中へ入ってきた。彼女を見てばっと愛海は立ち上がる。
「あっ!!」
「…よう、どうやら体は大丈夫らしいな。とりあえず今の状況であんたの身内に連絡するのは危険すぎる。悪いが今はこの家で暮らしてもらう」「なっ!!」
「その間、あんたには掃除や料理など雑用をやってもらう。料理とか掃除に必要なもんがあったらこの小生意気なガキに言え」
「…生意気で悪かったな」
—その日、私は『テロリスト』に連行される途中で彼女に助けられました。彼女のテロリストを止めるやり方は酷くて、人間とは到底思えないほど惨い止め方でした。最初は怖くて、恐ろしくて…助けてもらったのにこんな事言うのは失礼だと思うけど。
『狂ってる』
そう思いました。看病をしてくれたゴルゴさんといい、危なそうなのに変に家事が得意なパシリくんといい、少しだけ常識とは違う彼らもちょっとおかしいと思いました。
「さっ、とりあえず寝るか」
「あぁ。だが彼女の分はどうする、ソファもベッドもないぞ」
「よし、パシリ。地べたで寝ろ」「ひどっっ!!」
「黙れ。既に『パシリ』というネームをつけられているだろ。地べたで寝るくらい我慢しろ」
…でも、なんだかちょっと面白かったです。こんなの言うの不謹慎かもしれないけど、今まで家の中で軟禁状態だった私にとってはすごく新鮮で『新しい友達』が出来たみたいでうれしかったんです。
結局、パシリくんは地べたで布一枚しいて寝ることになり私は寝る前にパシリくんにお礼を言いました。するとパシリくんは、
「あーあー、べつにいいって。客人には客人のもてなし方があるしこういうの慣れてっから。あんた、今日大変だったんだろ?」
「でも…」
「はいはい、とりあえず今日は寝ろ。謝るのとか、俺結構嫌いなんだよ」
そういって、彼は寝返りをうった。彼にも、色々あったのかもしれない。
とりあえず、今はゆっくり休むことを最優先しよう。そう思い、私はまぶたを閉じた——。