ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 青空兎【ソラウサギ】 ( No.23 )
- 日時: 2010/03/28 20:45
- 名前: 狂乱 (ID: M2SneLVI)
【4】
彼が消えた?私の頭の中は次の日になってもそればっかりだった。
だいたい彼がいたからこそあの冬の出来事があったわけで、彼がいなかったら誰も死ななかったし、そもそも白百合の経営しているこの学園に黒百合がわざわざはいってくることもなかった。
記憶と現実が矛盾している…。どちらが本当なのだろうか。
ぼぉーっと考えてたら先生に教科書で叩かれた。痛。
放課後。今日は温室へと向かった。
ムシムシして暑い。温室はもっと暑いだろうから私は制服を脱ぎ、運動着の半袖、半ズボンに着替えた。
去年の秋にカリンちゃんが蹴って壊したドアはまだ直っていなかった。中に入ると案の定。ムシムシ×4した空気が襲いかかってきた。
「カリンちゃーん?いるー?」そっと静まりかえった温室に声をかける。………返事なし。前の居住人は愛想よく出迎えたのに…。
私は温室の中にある物置へ行きそっとドアを開けた。
……寒い。私は半袖、半ズボン&ムシムシ×4空気とその寒さのギャップに負け、いそいで制服をきた。
私としては手袋とマフラー、コートもほしかった。夏なのに。
そんな寒さの中でカリンちゃんは見覚えのあるコートを羽織って、虚ろな目で裁縫をしていた。
コートは麻の葉さんのものだった。裁縫が嫌いで、苦手で、人形師なのにニンギョウ1つ作れないあの姉御肌で強気なカリンちゃんはどこにいったのだろう?
「カリンちゃん?」私がそういうとカリンちゃんは振り向いた。いきなり立ち上がってギラギラとした目をむけながら歩みよってくる。
「×××。おまえ知ってたんだろ?麻の葉とか琉姫がいつ死ぬか。」いきなり痛いとこをつかれた。さすが鋭い。
「私は…—」
「知ってたんだろ?なんで、なんで教えてくれなかったの?」
カリンちゃんは私の首をつかんだがすぐに放してその場にくずれおちた。
「ゴメン…ゴメン。カリンちゃん。」
私は謝るしかなかった。私はあの日、知っていながらも彼を死なせないことだけに専念してしまったのだ。
そして彼も助けられなかった…。
カリンちゃんや小淵くんが最後に話すチャンスを捨てさせて優先したのだから、言い訳もなにもない。泪を一緒に流す権利もないのだ。
「カリンちゃん。今日はかえるね。」
私には逃げることしかできなかった。
この冷たい突き刺さるような空気はカリンちゃんの“才能”ではできない。麻の葉さんか琉姫ちゃん—もしくは呂季ちゃんのうっすらと残った悲しみなのかもしれない。
「×××。」カリンちゃんが何か言ったが聞こえなかった。
「どうしたの?」聞き返す。
「いや。おまえの“名前”を呼んだだけだ。」
…私の耳は壊れてしまったのだろうか。自分の名前が聞こえないなんて………私の名前はなんだったけ?
「そう。明日また来るね。」
動揺をかくしながらそう約束した。
ふとカリンちゃんの掌を見た。針が何回も刺さったのか傷がたくさんあった。
一番目についたのは、とんがり帽子に釘がささったあのマークと明日の日付。昼休み頃の時間帯だった。