ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 青空兎【ソラウサギ】 ( No.27 )
- 日時: 2010/03/28 20:48
- 名前: 狂乱 (ID: M2SneLVI)
【5】
私は次の日。朝から授業をさぼって温室へいった。もちろんカリンちゃんが心配だったからだ。
小淵くんにいったら最近多いから大丈夫だっていってくれた。未来ちゃんも承諾してくれたし。
「カリンちゃんっっ!!」私は物置のドアを勢いよくあけた。
「なんだ×××。そんなに急いで。」カリンちゃんは昨日と同じ姿で英語のワークをやっていた。昨日とちがって機嫌がいいようだ。テーブルには少し崩れて綿がはみ出ている兎のぬいぐるみがおいてあった。
「よかった」わたしはホッとした。
「×××。昨日は…その…悪かった。いいすぎた。あのあと私はこれ以上友達を減らしたくないと思ったんだ」
私はにっこり笑った。「うん。ありがとう。でも私が
教えなかったことは事実だし…悪いことしちゃってホントゴメン。」
「フン。別に許した訳じゃないんだが…。まぁ、×××も本当に悪魔女だな」「ひっどーい!」私たちは顔を見合わせると笑った。カリンちゃんだけはかわっていない。その事実は今、私の唯一の光だった。
私は紅茶を蛙のマグカップについで、カリンちゃんに渡しながら隣に座った。
「それ、私が作ったんだが…やはり裁縫は苦手でな」
ぬいぐるみを横目で見ながら苦々しく言う。
「んん…。綿、いれすぎなんじゃない?少し直せばいいかも。」「×××。治してくれないか?」私はうなずいた。家庭科方面は大好きだから。
しばしば無言………。
「あのね。カリンちゃん…」私は言おうか言わないか思っていたことを全部話した。カリンちゃんはやっぱり何か隠してると思っていたらしい。私が話し終わったあとも少し考えていた。
「彼は私も覚えてないな。名前も黒百合しか分かってないんじゃ捜しようもないしな……晟はしょうがない。キヨ姉にはすごくかわいがってもらってたしな。ほっとけばあいつのことだから治るだろう。」
「うん。でも私、彼の存在を証明したいの」それは私の願いであり最大の謎だった。
「残念だ。私は今日の昼に死んでしまう。手伝ってやりたいのはやまやまなんだが…なぁ、私はどうやって死ぬんだろうか?」
「んん…わかんない。でも最後まで一緒にいるから」
カリンちゃんは微笑んだ。「ありがとう」
カリンちゃんの死は少しずつ迫っていた。
今の時刻は12時50分。タイムリミットは1時であと10分というところだった。
「もうそろそろだな。」カリンちゃんは私が作ったオムレツを食べながら言う。「うん」私はうなずいた。
やっぱり言わないでおいて、静かに知らないままの方がカリンちゃんは幸せだっただろうか?
こんなに早く“光”が消えてしまうとなると、こんなに早く親友が消えてしまうと思うと泪がでてきた。
「おいおい×××。っていっても最後までおまえの名前はとどかないんだな。大丈夫。消えたモノは待っててもけして帰ってこないけど、自分から向かっていけばまた取り戻せるんだから。」だからって早く死のうなんて思うな。とカリンちゃんも泪を流しながら笑う。
12時59分40秒。目の前の蛙型時計が指し示す。
「そろそろお別れだ。私は麻ノ葉のところに行く。またな。」
1時。蛙時計がベルを鳴らしてお知らせした。
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……………………………………………………………。
「カリン…ちゃん?」
「おい、なんで生きてるんだよ!?」
カリンちゃんは
普通に呼吸して
普通に身体を動かして
普通にしゃべって
当たり前のように 生きていた
カリンちゃんの掌にあったあの例の印は静かに床に剥がれ落ちた。