ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.10 )
日時: 2009/12/01 18:58
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

Episode07
Alice of the Game-少女の退屈しのぎ-

 *

「フラン、帰ってきた。どこ、行ってた。説明しろ」

 そうフランに詰め寄ってきた一人の少女。どうやら先程まで部屋で人形遊びなどをしていたらしく、ぜんまい仕掛けの人形や、オルゴールなどが散らかっている。その部屋は、まるで玩具箱のような。
 部屋の主である少女も、黒いドレスを着ていて目は水晶のように透き通っており、腰まで伸びている流れるような栗色髪と、まるで人形だ。——目は虚ろで表情の無いその可愛らしい顔は、本当に人形のようだが。
 フランはにこりと少女に笑いかけながら、散らかっている人形を片付ける。

「うん、ちょっとね。君が知らなくても良い事だよ」

 何も喋ろうとしないフランに、少女はそれ以上問い詰めようとはしなかった。それはフランに言われたからではなく、ただもう”興味が無い”というような、そんな感じだった。
 少女はすくっと立ち上がると、フランが片付けたばかりの玩具箱から、チェス盤を取り出した。

「フラン、暇。チェス、やる」

 そう言って、感情の篭っていない虚ろな目でフランを見る。それに対し、フランはいつも通りにこにこ笑って返答する。

「うん、いいよ。やろうか」

 テーブルの上にチェス盤を置くと、二人も椅子に座って駒を並べ始めた。少女は自分で誘っておきながら、顔には嬉しそうな表情も楽しそうな表情もなく、只虚ろな目で黒い駒をチェス盤に並べていった。
 ゲームを始めると、少女はチェスをやりながらも話し始めた。

「また、潰した。トランプの兵隊、また潰した」
「そうか、それは良かったね」

 ”トランプの兵隊”とは、おそらくセシルたちのいる治安維持機関”トランプ”の事を指しているのだろう。少女は無表情だったが、どこか嬉しそうな顔をしていた。
 少女の話をフランは楽しそうに聞く。潰した——つまりは「殺した」と言う意味だという事を、フランは分かっていた。それでもフランは、トランプ——人間などどうでもよさそうに、楽しそうに聞くのだ。

「トランプ、私のゲームを邪魔する。私の作る”再生の日”(リバース・デイ)の邪魔する。だから、潰す」

 少女はそう言いながら、フランの駒を次々と蹴散らしていく。まるで、少女が人間を扱う時のように。

「だが私は考えた。これはより面白くゲームをする為に、必要な事なのか。最早此処でゲームを楽しんでいる私達も、盤に並べられた駒の一つなのかもしれない。それも面白い……運命の中で縛られ、足掻く人間共と一緒に、一緒に遊んであげることにした」
「……それが君の新しいゲームなんだね、アリス」

 フランはふっと、少しだけ笑った。だが驚いてもいた。
 何故ならアリスはいつも“遊ぶ側”だった。つまりはロールプレイングをプレイする“プレイヤー側“だったのだ。だが今回は違う。アリスは自らもゲームの中のキャラクター——ゲームの駒となったのだ。

 チェス盤に並べられた駒——ニンゲンを使って、アリスは今日も退屈しのぎにゲームをする。とても残酷で、狂気にかられた、愉しい愉しいゲームを。
 そして次のゲームは自らも駒となる。この地を血で染めるような、もっと愉しいゲームが始める為に——。

 *

 トランプウエスト支部支部長、ルイス=スプリングフィールドは、ある屋敷の前に立っていた。トランプの巨大な屋敷くらいはある、大貴族が住んでいるようなお屋敷。
 何とも古めかしい音がして、巨大な門が開く。そこに立っていたのは、黒髪のロングヘアにメイド服の少女。

「お待ちしておりました。ルイス=スプリングフィールド様」
「やあ、久しぶりだねエステル。君の主の下に、案内して貰えるかな?」

 すると少女——エステルはくるりと後ろを振り返り、屋敷の方へと歩き始めた。ルイスもそれについて行く。
 屋敷の扉が開き、待っていたのは薄紫の髪にケープを纏い、シルクハットを深く被っているという、特徴的な外見をした子供だった。もっとも——”子供”というのはあくまで外見を見ての話だが。性別の方はシルクハットで顔がよく見えない為、男か女かは分からない。

「ご苦労エステル。そして相変わらずそうだね、ルイス君」
「そちらこそまったくお変わりないようで、ワーズワース公」

 お互い挨拶を交わす。話しぶりからどうやら昔からの知り合いのようだ。ワーズワース公はルイスの言葉に、シルクハットを深く被っているため目元は見えないが、口元から笑っている事は分かった。

「まあ、こんなところで立ち話をしているのもあれだ。エステル、案内を頼むよ」
「承知致しました」