ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.12 )
- 日時: 2009/12/02 19:26
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
Episode08
Magic-少年への課題-
*
「やったー! 面接試験が受けられるんだね、クレイグ!」
クレイグの報告に、セシルは目を輝かせながらはしゃぐ。気持ちは分かるのだが、あまりにもの喜びように、クレイグは呆れつつあった。
だがクレイグは只報告しにだけに、セシルに会いに来たのではない。それは先程セシルから感じた“魔力”の事についてだ。
「ひとまず落ち着け、俺が話しにきたのはそれだけじゃない」
「へえっ、何?」
話が変わってもまだ喜びが抜けないのか、目を輝かせたまま話を聞く体勢になるセシル。
まあ此処でキリッと話を聞く体勢にはならないだろうと予測していたクレイグは、気にせず話を始める。
「お前……魔術って知ってるか?」
「魔術? あの魔法使いとか魔女が使うやつ?」
“魔術”といえば、シンデレラなど絵本に出てくるような魔法使いが、主人公やヒロインの願いを叶える為に使う幻想的なものなどを、大体の人間が想像するだろう。セシルもそう思っていた。
クレイグはおおよそそんな答えが返ってくるだろうと予想していた。だから魔力という特殊な力の源を持つセシルに、魔力が——魔術がどんなものか説明しなければならなかった。
「まあ大体の奴等はそう思うだろうな。だけどこのレーヴの魔術は、残念ながらそういうおめでたいもんじゃねえんだ。——まあ、こういうのでも喜ぶ奴は喜ぶだろうけど」
クレイグはすっと手を上げて、一瞬目を瞑る。
するとどうだろう。掌の上で、白い火花がバチバチと音を立て弾ける。つまり、クレイグは掌の上に弱い電気を生み出したのだ。
その光景にセシルは喜んでいた事も忘れ、クレイグの出した火花の虜になる。
そんなセシルを見たクレイグは、にやっと笑った。
「んじゃ次。危ねえから壁の辺りまで離れてそこでしゃがめ」
——離れてしゃがむ? 何でだろ……。
セシルは一歩二歩三歩と、十何歩と壁の方へと下がる。
クレイグはぐっと身体に力を入れた。すると先刻まで小さな火花だった電気は、急に勢いを増し雷撃の矢となる。そして轟!と音を立てて、セシルがしゃがんだ丁度上の窓ガラスを貫いた。
——ちょ……ええっ!?
セシルは目を丸くして、砕け散った硝子の破片を眺める。粉々になった硝子は、クレイグの放った雷撃の矢の威力を見事に表している。
「さっき見せた花火は、お前ら異世界の人間が想像しているだろう魔法使いが使う“魔法”のイメージってとこだろう。で、今見せた電撃が俺らの世界の“魔術“ つまりお前が思ってるような、幻想的なものじゃないってことだ」
話に唖然とするセシル。そしてクレイグは本題の”山場”を告げた。
「トランプの面接試験は、別に小難しいものじゃない。——只、面接試験で試験管に勝てば、それでトランプには入れる」
——え……それだけって。
もっと頭を使うようなものだと予想していたセシルは、試験の単純な内容に驚いた。
だが問題が一つあった。単純な内容とはいえ、セシルは大貴族の息子。戦いどころか、武器さえ握った事のないセシルに、果たして試験を合格できるかどうか。
そんなセシルの悩みを解決したのは、クレイグの話の続きだった。——その続きが、更に問題を引き起こしたのも事実だが。
「それで試験に有効なのが“魔術” 逆に言えば、試験の相手はエーテルが多いから、魔術が使えないとキツい。じゃあ魔術を使おう。だがどうだ? 魔術を使える奴なんて限られた奴だけだし、魔術を覚えようとしたって、魔力を宿す事から始めてかなりの年月がかかる。俺だって5年くらい掛かった」
クレイグはそこで一旦区切ると、セシルの右眼——オッドアイのうちの紅い目の方を指差した。
「だがお前は違う。お前の右眼には魔力が宿っていた。それもかなり強いのが——そこで、これから一週間でお前に魔術覚えてもらう」
——え……?
「ええええええええっ!!」
一瞬、理解ができずぽかんとするセシル。
だが次の瞬間、話を理解したセシルの悲痛な叫びが、部屋全体に響き渡った。