ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.18 )
日時: 2009/12/03 19:44
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

Episode10
Examination-試験官との対面-

 *

「やあ、セシル。元気そうだね」

 今セシル、ルチア、クレイグ、レイシー、ルイスの五人がいるのは、トランプウエスト支部の地下にある闘技場。長い間使われていないのか、まったく手入れがされていない。
 そんな闘技場の真ん中で、にこやかな笑顔でルイスは言った。今のセシルにとっては、気軽に返事を返すような気分でもないのだが。
 今日は一週間後——つまり、試験当日。セシルが余裕を持てない理由は此処にある。
 緊張で身体が上手く動かないセシルに、クレイグが耳元で囁いた。
 (大丈夫だって。一応魔術は覚えたんだし合格できる)
 クレイグの言葉に、セシルはこくりとだけ頷いた。
 ——大丈夫、大丈夫だ僕……。
 緊張を解(ほぐ)そうと、何度も自分に言い聞かせる。

「そろそろ試験を始めてもいいかな? もう試験官は待ちくたびれているよ」
 
 「えっ」とセシルが階段の方を振り返ると、かつかつと音を立てながら、二人の女が闘技場へと下りてきた。
 一人は青み(青緑)のかかった長い黒髪の女性。もう一人は、横髪だけ伸ばした銀髪に金色の目を持った少女。どうやらこの二人が試験官らしい。
 セシルは試験官が予想と大きく外れて驚いていた。戦うというのだから、てっきり化け物みたいな大男が出てくるのかとばかり思っていたのである。
 前の二人が試験官だとするとどちらが戦うのだろう? 黒髪の女性か、それとも銀髪の少女?か。はたまた両方なのか。それはまだ分からない。
 黒髪の女性が自己紹介をしようと口を開く。

「初めまして、セシル君。私はクローディア=ソーンダース。これでもまだ17歳だから、決して二十歳とか思わないようにね。今回の試験官を務めるから宜しくね。で、こっちの子が」
「……ロレイン=クロムウェルだ」

 黒髪の女性クローディアは笑顔で、銀髪の少女ロレインは無表情で挨拶をした。

「えっと、セシル=エヴェレットです。今日は宜しくお願いします……」

 まだ少し身体が強張っているのか、ぎこちない動きでセシルも挨拶を返す。
 クローディアは笑顔で「宜しくね」と言うが、ロレインはまったくの無反応だった。
 ——もしかして僕、この子に嫌われてる……?
 ロレインに苦笑いながらも笑いかける。が、やはりロレインはつんとしていて、セシルの方を見ようともしなかった。それを見てセシルはがっくりとなる。

「ごめんねセシル君。ロレイン、初対面の人には笑顔で挨拶をしなさいと、いつもいってるじゃない」
「クローディアはいつもそれを言うな。別に私はそんな事どうでもいい」

 変わらずつんとした態度のロレインに、困ったように笑うクローディア。
 そこにレイシーが割ってはいる。
 
「話はそこまでにしてもらおう。そろそろ試験を始めるぞ。セシル、ロレイン、配置につけ。後の者は全員下がれ」

 ——この子が対戦相手?
 ロレインは何も言わずに競技場の右端に立つ。
 ぱっと見る限りでは、只つんとした無表情な少女というだけで、特に戦うようにも見えない。
 セシルもとりあえず自分の配置、競技場の左端へと立った。

「それではセシル=エヴェレットのトランプ入隊試験を行う。——試合開始!」