ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.21 )
- 日時: 2009/12/05 14:49
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
Episode11
Faucille de mortel-死神の鎌-
レイシーの声が、古びた闘技場に響く。
セシルは最初ロレインが仕掛けてくるのかと思っていたが、どうもその気配がない。試合が開始されてから、お互い動かないで何分か沈黙が続く。
こっちから攻撃するしかないのか、セシルがそう思い構えた時、ロレインが口を開いた。
「……一つ言っておく。棄権しろ、少年」
——え? この子、今棄権って言った……?
セシルは言葉の意味が理解できず、ぽかんとロレインを見つめる。ロレインは溜め息をつき、もう一回同じ事を言った。
「棄権しろと言っている。……でないと、必ず後悔する事になる。今まで適当な考えで試験を受けてきた輩は、皆此処で落ちていった」
冷酷な声で言うロレインに、セシルは少しむっとした。
——違う。僕はそんないい加減な気持ちで、この試験を受けに来たわけじゃない。
ロレインの言葉に折れず、きっぱりとした口調で言い返す。
「僕は……適当な考えで試験を受けにきたつもりはない。少なくとも、僕はそう思ってる」
それを聞いたロレインは、イラついたのかピクリと眉間に皺が寄る。
セシルの手から、バチバチと電気の爆ぜる音がする。
「あんまり女の子は傷つけたくないんだけど……ごめん。“電撃の刺”(エピンヌ・エレクトリシテ)」
バッと右手をロレインへと向ける。そしてそこから、電気を帯びた刺が無数に放たれた。
無数の刺はロレインに適度なダメージを与え、試験は終わる……セシルはそう思っていた。
だがロレインも試験官、そう甘くはなかった。
「“盾”(ブクリエ)」
一瞬ロレインの金色の目が光る。そして次の瞬間、刺は全て弾き返されていた。
何と彼女の肘から下が硬質化、しかも身の丈の半分程ある盾へと変形していたのだ。盾は相当硬いらしく、刺に当たっても傷一つ無い。
「この程度か、少年」
ロレインは盾を元の人間の腕へと戻す。
——腕を変形……? エーテルはそんな事もできるのか……。
エーテルが特殊な力を持つ事は、魔術を覚える時クレイグから聞いていた。しかし、まさか身体を変形できる者もいるとは……。
唖然とするセシル。ハッとすると、ロレインが自分のもとへと飛び掛ってきた。
「“稲妻”(エクレール)!」
セシルの右手からバリバリと白い雷撃が爆ぜる。空間を裂くような雷撃がロレインへと襲い掛かるが、またしてもロレインの盾に防がれる。
だが防御だけでは終わらない。ロレインの目が光る。
「“鎌”(フォシーユ)」
両腕が鋭い鎌へと変化し、セシルの懐へと飛び込む。
——っ、死ぬ……!
死の危機を感じたセシルは、本能的に後方に下がった。何とか急所に当たる事は防いだが、身を庇った両腕から血が流れる。
ロレインの鎌は鋭く、まさに『鎌』と言える攻撃的なフォルムをしていた。鎌で攻撃を喰らえば、間違いなく致命傷を負うだろう。
ロレインは小柄で身軽な体系をしている為、スピードがかなりある。そのスピードにあの鎌。盾もあるし、この勝負はロレインの方が有利だろう。
——たとえ相手の方が強くても、まだ試合は終わってない……。
腕から流れ落ちる血をぺろりと舐める。そして右手に電気を躍らせる。
「……随分と諦めが悪いな、少年。お前、死ぬぞ」
ロレインはギラリと光る鎌を向ける。だがセシルは、死神を連想させるようなその鎌に、少しも動じずに電気を雷へと昇華させていく。
「ロレイン、だったよね。ごめんね、僕こんなとこで死ぬつもりないから……」
バリバリと雷の爆ぜる音がする。それは刺や矢などではなく、巨大な「槍」となって。
さすがのロレインも、この状況には目を丸くする。
「“雷撃の槍”(ランス・エクレール)」
セシルの右手から、人間から作られるとは思えない巨大な雷撃が、槍となりロレインを貫こうと放たれた——。