ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.25 )
- 日時: 2009/12/05 16:48
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
Episode12
Madness Red-狂乱の赤-
「“盾“(ブクリエ)!」
とっさに盾を出し雷撃を防ぐロレイン。だが完全に防ぎきれていないようで、盾に当たる雷撃は四方八方に飛び散っていく。
セシルも負けじと右手に力を入れる。だがそれでも、ロレインの盾を破壊しきることができない。
その様子を外から眺めていたルチアが、クレイグに問いかける。
「……たった一週間で、あそこまでの魔術を身につけられるものとはお前ません。貴方、一体何をしたんですか?」
「別に、俺は普通に教えてだけだよ。その結果があれだ」
「つまりは“天才”という奴でしょうか?」
「……そうかもな。だけどあれはどっちかっていうと、最初から“使えてた”けどそれに今まで“気づいてなかった”そんな感じだ」
ルチアはその言葉に何も答えず、またセシルの戦いを眺めた。
盾で防ぐ事を止めたのか、ロレインは目を光らせる。
「“剣”(エペ)」
先程まで盾だった右腕を、両腕共に巨大な剣へと変え一瞬で雷の届かない上へと跳ぶ。
そして壁をタッと蹴り、雷のガードがないがら空きの場所へと飛び込んだ。
——やばい……!
赤い雫が闘技場の床に飛び散った。見る者が目を疑う。
ロレインの容赦のない刃が、セシルの腹を切り裂いた。その場で倒れるセシル。
「っ……セシル!」
クレイグが助けに行こうとしたが、そこをルイスが止めた。ルイスは黙って首を振る。
その横をクローディアが通り過ぎた。剣を真っ赤に染めたロレインの方へと行き、肩を掴む。
「何でここまでしたの……。子供相手に、いくらなんでもやり過ぎよ」
「これは試験だろう? 此処で死ぬような奴は、トランプに入ったところで同じ運命を辿る。だから私は『棄権しろ』と言った。それをあいつが聞かなかっただけだ」
ロレインは人の腹部を切り裂いた事に、罪悪感はないようだ。それを見てクローディアは一瞬驚いたような顔をしたが、何も言わなかった。
セシルはぐったりとしていた。動こうにも動ける程の力がない。視界もぼやけていく。
——身体が言うことを利かない……。
——僕は、此処で死んでしまうのだろうか……。
セシルの頭に“死”という文字が浮かんだ。
——此処で死ぬ? 死ぬ? 死死死死死死死死死……。
次の瞬間、セシルの身体にとてつもない衝動が走った。
——殺される前に、殺さなければ!
その場にいたもの全員が、自分は何か幻を見ているのかと思った。動けない筈のセシルが、突如雷を纏いながら立ち上がったのだ。そんなセシルを目の前に、動揺しながらもロレインは剣を構える。
だが、そのセシルはどこか違った。赤いのは右眼だけだった筈なのに、左眼までが充血したかのように深紅色になっている。
じっとセシルを見ていたロレインが、何か気づいたように呟く。
「お前……“少年”じゃないのか」
ロレインの言葉など無視し、一直線に突っ込んでいく。ビリビリと爆ぜる雷撃が襲い掛かる。
「何回やっても同じだ! “盾”(ブクリエ)」
剣だった腕を盾へと変え、雷撃を防ごうとした。が、傷一つつかなかったその腕に、突如ヒビが入り始める。その光景に、ロレインは自分の目を疑う。
このままでは腕が壊れてしまうと直感したロレインは、盾を戻し鎌へと変え懐に飛び込む。
鎌は直撃し、セシルは倒れる。……普通なら倒れる筈だった。
何とさっき切り裂いた部分どころか、今攻撃を当てた部分までが再生したのだ。平然としたセシルの雷がロレインに直撃し、壁まで吹っ飛ばされ減り込んだ。
「か……はっ!?」
ロレインの口から血が流れる。先程まで目の前の少年を圧倒していた筈のロレインが、同じ少年に吐血までする程追い込まれたのだ。
更に止めを刺そうと、セシルは雷撃を生み出す。が
「“水晶庭園”(ジャルダン・クリスタル)」
突然ロレインの周りから現れた水晶が、ロレインを護るように取り囲む。雷撃は四方八方に飛び散り、消えていった。
セシルの後ろにはクローディアが立っていた。どうやら水晶を出したのは、彼女の力らしい。
「そこまでよ、セシル君。決着は着いたわ……これ以上やるとロレインが死にかねない。試験はセシル君の合格。……だから、止めなさい」
「待て、クローディア。私はまだ戦え……」
「どうしてもと言うなら、今晩のメニューにロレインの好きなシチューは無しね」
「……っ、分かった……」
好きな物を釣り合いに出され、渋々承諾するロレイン。
セシルはこれ以上攻撃しないよう、ルチアとクレイグに取り押さえられた。その時には既に、左眼は元の蒼い目に戻っていたのだが。