ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.3 )
- 日時: 2009/12/01 18:46
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
Episode02
Rabbit Hole-悪戯ウサギの通り穴-
*
「まったく、何で俺がお前と一緒の任務なのか……。ついてねえな」
クレイグが独り言のように、ルチアに対しての愚痴を吐く。
様々な次元と繋がる巨大な穴——通称『ウサギの通り穴』(ラビット・ホール)の中に、ルチアとクレイグはいた。
何故、そんな穴の中に仲の悪い二人が一緒にいるかというと、彼らにはある任務がかせられていた。
「知りませんよ。少なくとも白兎捕獲は私一人で充分でした。なのに支部長は監視係、しかも貴方のような者を任務に連れて行けと言ったのです」
「お前一人で行かせたら白兎殺しかねないから、俺が監視係として来てるんだろ。それに支部長『連れて行け』なんて言ってねえよ。何で俺がお前の部下みたいな扱いになってんだ。」
「私の方が貴方より上だからです。全てにおいて存在において」
「……一発撃たれたいのか?」
クレイグはガンベルトから、一つの小型の銃を取り出す。表情は変わっていないが、怒っているのは行動からよく分かった。ルチアもそれに対抗しようと、どこからか取り出したかは分からないが、暗殺用の数本のナイフを取り出していた。
彼らにかせられた任務とは白兎の捕獲。だがこれでは間違って白兎を殺す前に、仲間同士で殺し合いが始まりそうな雰囲気である。
『おい、二人とも武器を収めろ。今は喧嘩してる場合ではなかろう』
ルチアとクレイグの耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。先程副支部長と呼ばれていた、銀髪の少女レイシーである。何らかの方法で二人に自分の声を届けているようだが、それが何なのかはまったく分からない。
「申し訳ありません副支部長。只監視係が無能なだけで」
「悪かったな無能で……」
ルチアの容赦の無い罵りに、クレイグの中にふつふつと怒りが込み上げてくる。先程は銃まで出してしまったが今回はレイシーの前なので、何とか心の奥で湧き上がる怒りを抑えた。
だが当のレイシーはそんな二人の話など無視して、話し始めた。
『そろそろ白兎が、一人の子供を連れて此処へ来る。子供は保護、白兎は拘束して支部まで連れて来い。どうするかは妾と支部長で決める』
レイシーの言葉に「はい」と二人とも返事をすると、そこでレイシーの声は途切れた。
声が途切れると、クレイグは「はあ……」と小さな溜め息を付いた。
「どうしたのですか」
「いやさ……何か面倒臭い事になりそうな気がしてな」
その言葉に、ルチアは無表情で答える。
「貴方のゴミ屑のような勘など、当たらないので大丈夫ですよ」
「そーか、そうだといけどな……」
*
——僕を……知っている?
青年の言葉に、セシルは驚きを隠せない。
それもその筈。セシルと目の前の青年は、今日初めて会ったばっかりの初対面。なのに何故?
相手はセシルを見てクスクスと笑っている。セシルが驚きを隠せないのを、面白がっているようだ。
セシルはそんな事目にも止めず、何故青年が自分の事を知っているのかだけを考える。
そして考えた末に一つ思い浮かんだ。
目の前の青年はもしかしたら昔会ったことのある人で、只自分が忘れているだけなんじゃないか? 青年の顔は記憶のどこにもないが、声に懐かしさを感じるなど、有り得ない事ではない。
此処は名前を聞いてみよう、そうセシルは結論付けた。
「あの……名前、教えてもらえますか? 昔会ったことがあるなら、忘れてしまってごめんなさい」
セシルがそう訊くと、青年は笑顔のまま答えた。
「オレの名前、か……。別に教える必要なんてないんだけど、一応言っておくとしよう。オレはフラン=アークライト。改めて宜しく、セシル」
——フラン?
セシルはその名を聞いた時、何か頭に引っかかった。
さっき声と同じように、どこか懐かしさがある。でも、一体どこでその名を聞いたのかがまったく思い出せない。
セシルがまたしても考えているうちに、フランはセシルの手を掴んでいた。セシルが逃げられないように、がっしりと。吃驚して手を離そうとするが、相手の力が強くて逃げられない。
「離して下さい……っ!」
セシルは何とか逃げようとブンブンと手を振り回すが、一向に手が離れる気配はない。
セシルの耳に、クスクスと笑い声が入ってくる。自分の事を面白がっているのか……ちらっと顔を上げる。
フランの表情は先程までのにこやかな笑顔ではなく、「にやり」と見る者を震わせる妖しい笑顔だった。その笑みにセシルは思わず体の力が抜けた。
「んー……じゃあ、そろそろ行こっか」
「どこに?」とセシルが聞こうとした時には、セシルとフランを飲み込もうと、黒い渦が身体を包み込んでいた。
逃げる暇もなく、セシルはフランと共に闇の中へと引きずり込まれていった。