ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.7 )
日時: 2009/12/01 18:56
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

Episode04
Parallel World-異世界と少年-

 *

 ——ん? 僕、寝てたのか……。
 セシルはある屋敷の一室のベットで目を覚ました。起き上がって窓の外を見てみるが、そこに広がっているのは家や店などの街。さっきフランに連れて来られた場所でもないが、自分の知っている場所でもなかった。
 ——そういえば、さっきの小柄な女の子と黒髪の男の子は?
 部屋を見渡すが、部屋にいるのは自分一人だけだった。
 段々何が何だか分からなくなってきたセシルの耳に、コンコンとドアをノックする音が入ってきた。

「あ、はい……どうぞ」

 セシルがそう言うと、ドアから入ってきたのはさっき見た金髪の少女と黒髪の少年。そして更に見覚えの無い灰色の髪の長身の男と、銀髪に透き通った蒼い瞳を持つ少女もいた。
 目の前の人達が誰なのかも気になるが、それよりも先に確かめるべき事は此処がどこなのかだ。セシルはおずおずと黒髪の少年に尋ねた。
 
「あの……えっと、此処は……?」
「此処はレーヴの西部に位置する、ウエストという街だ。そしてこの王国の城みたいな屋敷は、レーヴ治安維持機関『トランプ』のウエスト支部の本拠地」

 黒髪の少年が返答する前に、長身の男がセシルの疑問に答えた。
 だがそんな事よりも、セシルが気になったのはこの場所の事だ。”レーヴ”に”ウエスト”それから治安維持機関と言う”トランプ”……、どれもセシルが聞いた事のない地名や名称だ。

「すいません……。『レーヴ』ってどこの国ですか……?」

 男は一回答えるのを途惑ったが、その口から答えを紡ぎ出した。

「……突然こんな事を言われ驚くかもしれないが、此処は君の知っている世界ではないんだよ……。つまりは”パラレルワールド”という奴だ。レーヴもウエストも、君の世界には無い場所なんだ」

 ——え?
 セシルは今、自分が何か聞き間違えたのかと思った。
 突如自分がパラレルワールドという異世界に来たという事も、そもそも男の話が信じられなかった。が、外の街は自分の西洋の世界とは似ているが、自分の知っている世界ではない。
 それに思い出してみると、自分を何処かへと連れて行こうとした青年フランは、自分を人間では無いと言った。そしてさっき通ったトンネルも、どう考えても普通じゃない。
 あまりにも男に告げられた事が衝撃的過ぎて、呆然となるセシル。男はセシルがこうなる事を予測して、話す事を途惑っていたのだろう。それでも男は——いや、男達はこの事実を”話す必要”があったのだ。
 こんな絶望的な事実を突きつけられても、自分は元の世界に帰る事ができると信じていたい。必死に希望を掴もうとセシルは質問する。

「じゃあ……僕がさっき通ってきた穴は? あそこから、元の世界に返ればいいんじゃ……」

 先刻フランは元の世界からあの穴を通り、このパラレルワールドへと連れて来た。なら、今度は此処から元の世界へと行けばいいのではないかと考えたのだ。
 だが、男は暗い顔で答えた。

「そうしたいところなんだが、僕達が君の世界へと干渉する事を、白兎が邪魔しているんだ……。だから」

 男はあえて最後の言葉——「無理だよ」というのは言わなかった。
 セシルは最後の希望さえ断ち切られ、ぽかんと男を見ているだけだ。

「君は白兎——つまりはフラン=アークライトに、何かしらの理由で狙われているんだ。だから白兎を拘束すると一緒に、君を此処に保護した。白兎を拘束できなかったから、何故君が狙われているかは分からず仕舞いだけどね……」

 言葉は聞こえるが、頭に入ってこない。理解ができない——それが今のセシルの状況だった。
 ——もしかして僕は、もうロッティやメリッサには会えないのかな……。
 セシルの脳裏に浮かぶ姉の顔や友の顔。でも、もし帰る事ができなければ、永遠にその人達とは会えない——。セシルの頬に涙が伝う。

「……落ち着いたらまた来るよ。暫く此処にいるといい」

 そうセシルの身を案じながら男が言うと、少女や男は出て行った。
 ガチャリとドアが閉まる。部屋の中にはセシル一人。
 ——見えている筈なのに、真っ暗だ。
 自分以外いない部屋の中、自分だけが世界から切り離されたような、そんなふうにセシルは感じた。

 そこに突然コンコン、とドアを叩く音。

「はっ、はい。どうぞ」

 ビクッと肩を震わせながら返事をする。入ってきたのは——。