ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.8 )
日時: 2009/12/01 18:56
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

Episode05
Craig-黒狼(ルー・ノワール)-

「ん、オレだけど」

 入ってきたのはクレイグだった。足音一つ立てずに、静かにセシルのベットへと近づいていく。
 突然のクレイグの来訪に、セシルは何を言えばいいのか分からない。

「あ、あの、えと——」
「いや、さっき泣いてたから心配になってな。支部長には、落ち着くまで部屋に入るなって言われたんだけどさ」

 そう言って近くにあった椅子を持ってきて、腰をかけるクレイグ。
 突然の来訪に何を話していいのか分からないセシルは、とりあえずクレイグをまじまじと見つめる。すると、先刻フランと対決していた時に使っていた銃が目に入る。

「……なんだよ」
「その銃、本物ですか?」

 セシルの視線が、自分へと向いていた事に気づくクレイグ。もっとも、視線の先はクレイグではなく、クレイグが身に着けているガンベルトの装飾銃だったが。
 クレイグはガンベルトから装飾銃を取り出し、セシルに見せてみる。

「本物だよ。さっき白兎から助けてやった時に弾、撃ってただろ? オレの愛用している銃で『ジョット』って言う」

 クレイグはそう言うと、ジョットをガンベルトに仕舞った。
 ——僕より少し歳が上くらいなだけなのに、銃なんて使っているのか……。凄いなあ。
 セシルはさっきまで孤独感に包まれていたのも忘れ、すっかりクレイグの銃に夢中になっている。
 セシルの目か輝いているのを見て、クレイグはふっと優しく微笑んだ。

「……笑ってるな」
「え……?」
「そういう顔もできるんだな、ていうか銃如きがそんなに珍しいのか? さっきと表情違いすぎ」
 ——あれ、この人……。
 あまり笑顔を見せず大人びた感じのクレイグに対して、クールな印象が根強いていたセシルだが、初めて優しい笑みを見せたクレイグに何か違う印象が芽生えてきた。
 セシルはハッとした。今度はクレイグがセシルをじいっと見つめている事に気づいて。

「えっと、何ですか……?」
「お前、何歳?」

 何を聞かれるかと思ったら、年齢というごく普通な事を聞かれ、逆にセシルは途惑った。
 ——僕背小さいし、結構子供に見られてるんだろうな……。
 セシルの歳は14なのだが、背が小さい為年齢より低く見られる事が多い。そしてそれはセシルの大きなコンプレックスであった。 

「14歳、です……」
「へえ、見た目の割には意外とそれなりに年いってるんだな。あ、でも白髪だからなんか幸薄そうな感じするかも。因みに俺16歳。」

 ——え? これで16歳……?
 またクレイグをまじまじと見つめる。顔は多少幼い感じがしなくもないが、言動がどこか大人っぽいクレイグは16歳には見えない。
 ——ちょっと待って? 16歳って言った?
 一つ疑問に思ったセシルは、思い切って尋ねて見る事にした。

「クレイグさん……16歳で国の治安維持機関に?」
「さん付けはやめろ、気持ち悪いから。まあ色々と理由があってな、此処に入る為に銃の使い方を覚えたわけ」

 ジョットを空中て回転させ、落ちてくる銃を片手で受け止めるクレイグ。
 ——僕より2歳しか歳が変わらないなんて思えないな。
 銃をガンベルトに仕舞うクレイグを見ながら、そう思った。クレイグは自分と違って言動が大人っぽいし、銃も扱える。自分とは大違いだ。
 ——凄いな……16で国の治安維持機関か。そういえばトランプは、フランを追いかけてたんだっけ……。彼は一体僕をどうするつもりだったのか。
 クレイグの事から、トランプの事へと連想ゲームのようにセシルは考えていく。
 ——ん? そういえば僕を連れて来たのはフランだっけ? あ、ならもしかして……。
 セシルは一つの案を思いつく。確証はないが、可能性は充分ある事だった。
 その考えが本当か確かめる為、セシルは口を開いた。

「クレイグ——」
「なんだ」

 セシルは決意した目で、衝撃的な発言をした。

「僕、トランプに入りたい」
「——は?」