ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Fate of Chains-運命の鎖- ( No.9 )
日時: 2009/12/01 18:57
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

Episode06
Discussion-支部長命令-

 *

「クレイグ……貴様、本気で言っておるのか?」
「いや、別にオレが言ったわけじゃないんすけど。セシルの奴、目が本気でしたよレイシーさん。……まあ、何か考えてたみたいですけど」

 支部長室と書いてある書斎のような広い部屋で、4人の人間が集まって話し合いをいていた。先程セシルの元へ行った長身の男、レイシー、クレイグ、それからルチア。
 話し合いと言うのは、セシルがトランプに入りたいという事だ。此処に来たばかりの少年が、いきなり知らない世界の治安維持機関に入りたいと言い出すなど、さすがに男やレイシーは驚いた。——ルチアは表情一つ変えずそれを聞いていたが。

「ルイス……どうするつもりだ? まさか、あの少年を我々の組織に入れるなど——」
「うん、それなんだけどね……」

 長身の男——ルイスもまた、衝撃的な発言をした。

「彼にトランプに入る為の、面接試験を受けさせてもいいと思う」

 瞬間、レイシーはルイスの懐に入り込んで胸倉を掴み、怒鳴り付けた。彼女はルチアよりも小さく、その綺麗な銀髪に美しい外見、それとは対に独特な喋り方から妖艶な魔女のようにも見える。が、今のレイシーは顔を歪め、鬼のような迫力があった。
 ルイスは困ったように笑うが、目は笑っていなかった。鋭い光を宿している。

「レイシーちゃん……手、離して貰える? これでも僕、結構本気だよ? それともレイシーちゃ、ゴブウッ!!」

 ルイスの頬にレイシーの強烈なビンタの一撃がヒットした。だが、それだけでは終わらない。

「貴様はあっ! 本当に癪に障る奴だ! 妾に”ちゃん”付けをするなと、何度も言っておろうが!」

 レイシーはビンタで弾幕を張りつつ、持っていた杖で更に追い討ちをかける。
 レイシーが恐い人だという事は、クレイグも知っていた。クレイグは今それを見て、改めてレイシーの恐ろしさを再認識する。無意識に距離をとりながら。
 一方のルチアは目に映る争いを下らないと思いながらも見ていた。二人の争いなどどうでも良いらしく、止める事なく遠くから見ている。 
 ようやくレイシーのビンタラッシュが終わり、ルイスはヒリヒリと腫れた頬をさすりながら苦笑する。

「ははは……っ。やっぱレイシーちゃんは怖いなあ……。でもこれは決定事項なんだよ、支部長権限って奴?」

 ルイスはそう言ってレイシーに笑いかけた。
 ルイスは支部長、レイシーは副支部長。年齢は実を言うとレイシーの方が上なのだが、役職としては僅かながらもルイスの方が上。上に意見はできても、命令には逆らう事はできない。レイシーは悔しそうに顔を歪める。

「くっ……分かった。いいだろう」

 レイシーは不本意ながらも頷いた。
 ルイスはそれを見ると、満足気に微笑んだ。

「じゃあ僕はちょっと”あの人”のところに行って来るから。また後でねみんな」

 そう言って皆に笑いかけると、椅子にかけてあったコートを取り、部屋を出て行った。
 ルイスは正気なのか。そう思いながらはあ、とレイシーは溜め息を零した。

 *

「なあ、ルチア」
「何ですか」

 レイシーも出て行った支部長室で、クレイグが沈黙を破りルチアに話しかけた。ルチアはクレイグを見る事なく、武器であるナイフの手入れをしている。

「今更気づいた」
「……」

 脳裏にセシルと話した光景を浮かべながら、言った。

「近距離に近づくまで分からなかった……あいつに”魔力”が宿っていることにさ」