ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

闇ニ舞ウ記憶ノ欠片 ( No.11 )
日時: 2009/12/04 12:12
名前: 黒翼 ◆ERZNJWqIeE (ID: 82QqnAtN)
参照: http://all-star5-knksk.cocolog-nifty.com/blog/

  2冊目【鏡影ノ意】 2ページ目


『貴方ノ影ニ呪イヲカケマショウ』

 姿見は、俺の欲望を映していたのかも知れない。
 学校に着くと、遅刻ギリギリだった。
 具合が悪く、ゆっくり歩いてきたからだ。

「あれ、流星?」

 俺の名を口にしたのは、と振り返ると、柴田 暁と飛鳥 輝がいた。

「暁……」
「どうした? 顔青いぞ?」
「保健室行ってきたら?」

 暁と輝はそう言って靴を履き替えると、保健室まで付き添ってくれた。

「失礼します」
「どうしたの?」

 保健医の弥勒先生は俺に問う。
 ——言えるかよ。
 「影にとり憑れました」なんて誰が信じる?
 現実的な大人になんて尚更だ。

「……朝起きてから気持ち悪くて」

 適当にごまかした。
 そう言えば大体仮病も通る。

「じゃあ、ベッドに横になりなさい」
「大事にな、流星」
「うん。ありがとう」

 俺は窓際のベッドの布団にもぐりこむ。
 影があれば、また厄介になるからだ。
 ならば、最初から暗がりにいればいい。

「木川くん、熱はかってみようか」

 弥勒先生に渡された体温計を脇に入れる。
 窓からは新ジャージで体育をする1年の姿が見えた。

 ——窓? 上からは蛍光灯?

 俺は咄嗟に左下に目線を落とした。





 影だ。





「……!」

 布団を頭からかぶる。
 影がなければいい。だけど今、作ってしまった。見てしまった。

『影ガ身体使ッテンジャネェヨ』
「!」

 頭に響く、影からの声。

「……んだよ、これ……!」

 俺は——










 ——カ ゲ ?










 俺は、影なのか?
 本当の“俺”は、“俺”ではないのか?
 “俺”の“影”に、俺という存在を否定されたようだった。
 影が俺の身体を乗っ取れば、影からしたら“俺”は“影”。“影”の“影”。

「はぁ……はぁ……」

 呼吸が荒くなる。
 影が身体に憑依し始めたか、手が黒く染まっていく。
 影が色づく。

 影は俺になる。
 俺が影になる。
 俺は影になる。
 影が俺になる。

 頭が狂う。
 訳がわからなくなってきた。数学や理科で解ける問題じゃない。
 こうして精神が不安定になると、影はより力を増す。

「木川くん?」

 弥勒先生の声なんて、苦しくて聞こえなかった。
 朦朧とする意識は、“俺”である“影”に融けて消えた。

「木川くん、大丈夫?」

 俺は、そのままベッドで深い眠りに落ちた。


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