ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 闇ニ舞ウ記憶ノ欠片 ( No.5 )
- 日時: 2009/12/02 13:42
- 名前: 黒翼 ◆ERZNJWqIeE (ID: 82QqnAtN)
- 参照: http://all-star5-knksk.cocolog-nifty.com/blog/
1冊目【狂気ノ歌】 2ページ目
「嘘……だろ?」
ふざけてる。こんなことある訳がない。
悪夢? 裏組織の陰謀?
「き、木川まで……!」
アキと同じだった。
融けた肉に腐敗臭。
「ニン……ゲ……」
木川は口を動かす。
あまりよく聞き取れなかったが、俺の事を指したのは確かだ。
骨の覗く木川の指は、俺を示していた。
木川以外の人は居ないかと見回したその時だった。
「ニ、ン……ゲン……」
「エモ……ノ……」
「ニン……ゲン……」
「……ンゲ……ン……」
嘘だ。
体中に寒気が走った。
さっきまで誰もいなかったのに、今は
生きた俺を囲むように全校生徒・先生がいる。みんな中心の
俺に手を伸ばして群がり、唸っている。
「あ……ぁ……」
虫酸が走る感覚というのが理解出来た。
プライドが今なら捨ててしまえる程の恐怖感に襲われた。
腰が抜けて床に座り込んでしまった。
格好イイとか悪いとか言ってる場合じゃない。
「や……やめ……」
よせ……俺に近寄るな!
そう言いたくても、声が上手く出ない。
恐怖で呂律が回らない。
——孤独。
俺の回りはみんな死んでる。
生きながら死んでる。 木川も、先生も、後輩やみんなも——
『嫌だ……こんな所で死にたくない!』
目の奥に熱く溢れる涙の意味は、自分でもわからなかった。
恐怖、後悔、憎悪——負の感情が俺を取り巻く。
ひとつの手が、俺に向かって伸びる。30センチ、
20センチ、10センチ——近づく制限時間。
俺の生命のタイムリミット。
俺は、それを受け入れる事にした。
『——……』
心にメッセージを残した。
一本の腕が振り上がる。
5、4、3、2、1——
「待て!」
聞き慣れたような声。
いつも聞いていたような、
気が動転しているだけか、気の所為か?
——違う。
ちゃんと知ってる奴だった。
中央階段から下り、道を避けるゾンビたちの
合間を通ってそいつは俺に手を差し延べた。
「大丈夫か、出雲」
「柴田……!」
俺は“柴田”を見てどれだけ喜んだだろう。
今の俺には救世主に見えた。
「ニン、ゲ……」
「! 出雲、行くぞ!」
「何処に!?」
「とりあえずついて来い!」
俺は柴田に手を引かれるまま、一緒に走る。
メールボックス側の職員室を通り抜け、引き付けた
奴らを教室側で鍵を閉めて時間を稼ぐ。
俺たちは最終的に、図書室に行き着いた。
「助かったぜ、柴田……」
「俺たち以外にも生存者がいると思わなかったぜ」
「たち……?」
柴田ひとりしか見ていないが、どうやら
図書室の奥にもうひとりいるらしい。
「大丈夫か?」
「柴、田……」
「輝!?」
そこには、ソファーに横たわった輝がいた。
顔は青ざめ、腕の傷から血が流れている。
「さっき木川にやられたんだ」
柴田はジャージのポケットから取り出した
包帯を輝の腕に巻きながら言った。
「中央ホールに気が集まっている間に鍵をありったけ集めて、
保健室で包帯とか探して……中央ホールみたらこの騒ぎだ」
俺は俯いちまった。輝の苦しそうな顔、
柴田の沈んだ表情から目を逸らしたかったんだろう。
「雄治……」
「うん?」
「傷、から……どんどん腐食……してっテル……俺も……
直に奴らみたいにナる……攻撃を……喰ラう、な……」
輝の言葉が少しずつ片言になっていってるのがわかった。
その時。
柴田が笑った。
「ニ……ゲンの……匂イ……」
ドア越しに奴らの声が聞こえた。
俺たちはどうなる? 死ぬか? 死ぬのか?
ほかに道は?
「——なーんて」
……は?
振り返った。瞬間——
ふたりは、もう人間じゃなかった。
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