ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 仮面一座 ( No.2 )
日時: 2009/12/12 10:47
名前: 爪楊枝 (ID: ImGaYTGg)

 ザワザワザワザワ。

 ここにいる、たくさんの観客の声を字で表すと、こんな感じ。
 僕はこの音が、キライだ。何言ってるのか分かんないこの音がキライ。
 でも、だからといってここから逃げ出す訳にも行かないんだよね。

 今は夜。僕がいるのは、とある村の小さな広場。
 この広場では、あの仮面一座の公演の真っ最中だ。
 「仮面一座」って言うのは、旅芸人が50人くらい集まってできた旅芸人の集団で、その一人一人が仮面を付けてるんだよ。
 で、その見せ物は、どこの見せ物小屋よりも、どこの旅芸人よりも凄いって噂さ。
 だから、今回の公演にも、たくさんの人が詰め掛けて来てる。 

 でも、僕はこの見せ物を見に来たわけじゃないよ。

 え?じゃあ何しに来たのかって?———

 僕はね、「芸をやりに」来たんだよ。
 僕は、「見る方」じゃなくて「やる方」なんだ。
 つまり、僕は仮面一座の一員ってコト。
 あ・・・・・・、驚いた?

 ほら、僕の出番が来たみたいだよ。

 広場の中心にいる、白い仮面をかぶった男が、僕の名前とその他十数人の名前を呼んだ。
 僕は一歩前に進み出ると、腰をおって一礼する。でも、僕以外の人たちは、早くも行動を開始していた。

 まず、広場の中心に集まって、その半分くらいの人数で肩を組む。次に、それより少ない人数で、その上に乗ってまた肩を組む。で、また上に1段。で、もう1段。さらに一段・・・・・・って感じでやって区と、人間ピラミッドの完成。
 おおっ、と観客は歓声を上げた。全部で11段くらいだから結構な高さだ。

 で。ここからが僕の仕事。
 今からあの上に上って色々やんなきゃいけないんだよ。
 めんどくさくてつまんない仕事だと僕は思う。
 ま、つまんない仕事はさっさとやっちゃいましょうかっ。

 ピラミッドを登る道は、最初っから決ってる。
 こういうの、毎日練習させられてるから苦もなく出来るんだよね。らくしょーってこと。

「・・・・・・よっと」
 はい、てっぺんに到着〜。で、ここからが僕の本領発揮だよ。

 僕はその場で、一気に逆立ちをした。
 どよめく観衆。かすかに揺れる、ピラミッド。

 次は後ろに宙返り。
 ビラミッドは、さっきより大きく揺れたけど崩れはしない。

 それから、僕は次々に技を披露していった。
 1つの技を見せるたびに、観衆は笑い、叫び、歓声をあげる。
 あ〜〜ますます五月蝿くなって来た。・・・・・・ちょっと黙ろうよ。

 と、そのとき。広場がふと静まり返った。同時に、僕の足元が———いや、ピラミッドが大きく揺れる。
 僕はとっさにバランスを保とうとしたけど、無意味だった。そのまま、ピラミッドは傾いて、傾いて、傾いて。
 そこまでなってようやく気付いた。

 ———ピラミッドが崩れ始めた!

 近くでピラミッドを見ていた観客は、悲鳴を上げて逃げ惑う。

 かなりヤバイよっこの状況!

 いや、ダメだダメだ。
 ここでパニックになったらそっちの方がかなりヤバイ。
 てなわけで、瞬間的脳内会議すたーと。(?)

(幸い、僕がいるのはピラミッドの一番上だから、誰かの下敷きになる確率は低い。問題は、どこに落ちるか、だよ。衝撃を吸収してくれる柔らかいものが理想的だけど、今都合よくそんなものがあるわけないし。何か代わりのものを探さないと。)

 結果→落ちる場所が問題。脳内会議終了。

 と、その時、簡単な造りの屋台が僕の視界に飛び込んできた。その屋根は布を張っただけの簡単なもの。

 嗚呼もう時間がない!僕は足元の、もはや意味をなしていない台を思いっきりけって飛び出した。