ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 第Ⅹ話 二重人格 ( No.10 )
- 日時: 2009/12/05 17:31
- 名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)
話は戻って、ここはグレイシャ風の丘のふもと。アイスは左目の眼帯に手をかけ、それを外した。
眼帯の下から現れたのは、血のように鮮やかな緋色の瞳。
その顔からなにか寂しそうな笑みは消え去っていた。
兵士は緊張した面持ちで一礼すると、一歩退いた。
「お、おはようございます。将軍」
少年は無言。兵士はいつものことと言う風に少し困ったような笑顔を見せた。
少年は今や、アイスではない。彼の名は【ライツ=フローライツ】その強さから、【将軍】と呼ばれる。
ライツは元々アイスの弟で、とある事故をきっかけに命をおとした。
そして、なぜかその人格がアイスの中に生まれたのだ。
アイスは大人しくて少し引っ込み思案。ライツは毒舌で攻撃的。
二人の性格は真逆で、兄弟とは到底思えないくらいである。
「将軍。ラファーロ軍が近づいておりますが……」
「わかっている」
ライツは軽く溜め息をつき、顔をあげた。
そして口を開くと、兵士に問いかけた。
「他の三国はどうなってる」
「リーアスは、沈黙の野原で戦いをはじめてたようです。
ミストはまだ安定。それから、エルドラドは既にラファーロの手におちたと知らされておりますが、
何者か知れない銀髪の少女が戦っているとのことです」
「銀髪の少女……まさかあいつ」
ライツは何やらぶつぶつと呟くと、考えこんだ。そしてもう一度兵士に問う。
「その少女の魔法属性はなんだ」
「【サイト】は風を使っていたと言っていますが……」
【サイト】とは、未来や過去、いろいろなことを見通す能力を持つ者達だ。千里眼を持つと言われる。
サイトは各国に必ず一人はいて、グレイシャには三人ほどのサイトがいる。
「風……か。やっぱりな」
ライツはほんの少し口の端をあげて笑ったような表情をした。そして歩きだした。
「しょ、将軍。どこへ行くのですか?」
歩き始めたライツを見て、兵士は焦ったように言う。
ライツはそれを見て、あきれたというような顔をした。
「戦いに……だ。そんなの当たり前だろ。馬鹿かお前」
ライツはそのまま進んでいく。取り残されそうになった兵士は、急いで他の兵士に言った。
本来、隊長が言うべきであるその言葉。
「出動……です」
何か頼りない声だが、兵士達は声をあげた。
一歩遅れて、グレイシャの戦いも幕を開けた。