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第Ⅱ話 水の国の姫君 ( No.2 )
日時: 2009/12/06 19:14
名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)

 レイク大陸には四つの国がある。
 中心のリーアス、エルドラド、グレイシャ、ミストの四つである。

 ここは水の国リーアス。ヴァロアの中でも一番水の豊かな国だ。
 人々は水を敬い、いつも水と助け合って生きていた。
 そんな平和な生活も今、音をたてて崩れおちてゆく……。

 「おじいさま、お願いです。私も行かせてください!!」

 リーアス国の中心にたつ城の中。玉座を前に、必死に頼みこむ少女がいた。
 流れるように艶やかな漆黒の髪と、雲一つない空のように澄んだ蒼い瞳。
 彼女の名はマリン=リーアス。この国のれっきとした姫である。

 「ならぬ。お前は儂の後継ぎじゃ。死なせる訳にはいかぬ」

 重々しい声で答えたのは現王ガイア=リーアス。マリンの祖父にあたる人物だ。

 「そんな!!私は……この国の人達を守りたい……」
 「うむ……」

 ガイアは考え込んだ。それには複雑な理由がある。

 「本来ならば、儂の後はお前の父が継ぐはずだったのじゃが……」

 不意にマリンの蒼い瞳に涙が溢れ頬を伝った。

 ガイアが悩む理由とは、マリンの父のことである。
 マリンの父カイスは、天才的な科学者であり、膨大な魔力の持ち主であった。
 大らかでリーダーシップもあり、王としてはまたとない人材だった。

 しかし、既にこの世にはいない。

 カイスは「奇跡の水」の研究を始めた第一人者だった。
 そして、それがラファーロの耳に入り、暗殺された。

 もし、カイス一人だったならば助かったかもしれない。
 だがラファーロは娘のマリンにまで目をつけた。
 相当の魔力をもったカイスの娘。その魔力を受け継ぐ者だと恐れ、殺そうとした。
 そしてカイスは、愛する娘を守るために死んでいった。

 マリンの目に焼き付いて離れない、自分をかばうように立ちはだかった背中。
 そして、飛び散った血。

 そんな父にマリンは一体何を思っただろうか。
 カイスは盾となって娘を守ったが、その心には深い、深い傷跡を残した。
 
 「マリン。お前はラファーロに復讐しようと考えているのではないか?」
 「そ、それは……」

 マリンは口ごもりながら答えた。
 憎しみがないと言えば嘘になる。自分の父を殺されたのだから。

 「復讐したいと思うのは、当たり前です!!
  しかし今は、国の民を守るために……行きたいです」
 「うむ……。お前がもし……汝の自我を保つことができると言うならば、
  好きにするがよい」

 ガイアが恐れているのは、カイスの娘であるマリンが秘めた強大な魔力を、
 我を失い解放してしまうことだったのだ。

 「……わかりました。ありがとうございます。おじいさま」

 マリンはそう言って玉座を背にし、高らかに宣言した。

 「リーアス第一戦闘部隊、出動!!」

 ガイアは遠くなるマリンの背中にカイスの面影を感じた。

 「決して……死ぬでないぞ。」

 力強く言うガイアの姿は紛れもない王の風格をかもしだしていた。