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第十四話 風の宝玉 ( No.23 )
日時: 2009/12/29 21:33
名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)

 フィリアが言葉を紡ごうとした。が、それはかなわなかった。
 リーチェがヴァイオリンを奏で始めたのだ。
 それは、曲と呼べるものではなく、まるで言葉のような響きだった。
 激しい抑揚をつけて奏でられる不協和音な人の心をかき乱す。
 フィリアは耳をふさぎながらうずくまる。
 先程まで我が物顔で輝きを放っていた魔法陣も光を失い、消滅した。

 「楽器を用いた魔術……。初めて見ましたわ」

 フィリアの周りを、キラキラとした光の粒が舞う。魔法陣の名残だ。
 その中でうずくまる少女は、苦笑しながら言った。

 「このヴァイオリンは、いにしえよりダークドール家に伝わっているものでな」

 リーチェはヴァイオリンを奏でる手をとめ、憂いを込めた瞳でそれを眺めた。
 よほど思い入れがあるものなのだろう。

 「妾は母からこのヴァイオリンを受け継いだ。
  今は妾がこのヴァイオリンの守護者なのじゃ」

 フィリアはヴァイオリンを見つめるリーチェを見て、ほんのりと柔らかく笑った。

 「母……ね」

 遠くを見るような目をしたフィリアのその言葉には、何かが込められていた。
 それが、悲しみや苦しみという暗いものなのか、
 楽しい、嬉しい、という明るいものなのかはわからない。
 ただ、その全てが混ざり合った何かが、フィリアの声にはあった。

 「なにか言ったか」
 「いいえ。何も」

 フィリアはゆっくりと立ち上がった。
 その顔には、あの妖しい笑みが戻っていた。

 「仕方ないですわね。魔法陣は諦めますわ。
  私は、同じ失敗を二度繰り返すほどばかではありませんので……」

 フィリアが右手を前に差し出した。
 その手を、シュルシュルと光の帯が包み込む。リーチェはそれを静かに見つめていた。
 そしてその光がはじけた時、フィリアの手の平には一本の杖が現れていた。
 複雑な装飾がほどこされ、長さはフィリアの身長を超えている。
 杖の先には飾りがついており、その中心には透き通った水色の玉があった。

 「〈宝玉〉!!その色を見ると、“風のウィンディ”か」
 「その通りですわ」

 リーチェの言った〈宝玉〉とは、このヴァロアに伝わる伝説に出てくるものだ。
 玉には、「水」「炎」「草」「風」「雷」の五つがある。
 それぞれ、その属性を司る精霊が宿っている。
 
 フィリアが持つ玉は“風の玉”風を司る妖精“ウィンディ”が宿っている。

 「なぜそのような物をお前が持っているのじゃ」
 「うっふふ……。それを今お教えすることはできませんわ」

 フィリアは驚愕しているリーチェに、笑いながら応えた。

 「さあ……どこからでもかかっていらっしゃいな」

 杖を手にしたフィリアは、余裕の表情で言葉を放った。