ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第14話 撤退 ( No.28 )
日時: 2010/01/03 12:07
名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)

 リーチェがヴァイオリンを構え、奏でようとした。
 その時______________フィリアが動いた。

「風よ、我を守る壁と化せ__________“創風璧”!!」

 杖を振り上げ唱えると、フィリアの周囲を風がぐるぐると取り巻いてゆく。
 そして、フィリアは風を纏うかたちとなった。
 その風に何の効果がわからないリーチェは、取りあえずヴァイオリンを奏で始める。
 二人だけの広場に響く、不協和音と風の音。
 フィリアに変化は訪れない。それを見て、リーチェは焦りの表情をうかべる。
 
「風の壁……魔術を遮断しているのかっ!」
「そう。この“創風壁”は私を守る盾。どんな魔術でも遮断できるのです」

 フィリアはそこで一息つくと、不敵に笑った。

「遮断するだけではないのですよ?」

 杖をもう一振りすると、フィリアを取り巻いていた風の渦がリチェへと向かう。
 リーチェは風が離れたのを見てここぞとばかりにヴァイオリンを奏でる。
 だがそれもつかの間、風はリーチェを包みこんだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ_________!!」

 リーチェが甲高い叫び声を上げる。体を切り刻むかのような痛みが彼女を襲う。
 
「この風は私に向けられた魔力を吸収し、倍増させて放出する。
 そんな優れものなのですわ」

 風が消滅し、荒い息をはくリーチェをフィリアは一瞥し、
 どこか遠くを見るような眼差しで言う。

「風はいいです。全てを運び去ってくれる。
 苦しみも、悲しみも、痛みも、過去の記憶さえも……。
 でもそれを完全に消滅させることはできない……」

 リーチェは傷だらけの体でも、ヴァイオリンだけはしっかりと抱えていた。
 玄が一本、その役目を終えてしまったようだが……。

「お前は……一体何者じゃ」
「ただの通りすがり……ですわ」

 フィリアは視線をリーチェに戻すと冷たい笑みを見せた。
 既にぼろぼろになった今のリーチェに、一体何ができるだろう。

「苦しそうですし……これで終わりにしましょう」

 フィリアが杖を振り上げた。その時リーチェは、次に来る自分への攻撃を
 避けられぬことを確信した。それでも魔術を行使しようとする。
 フィリアが最後の言葉を紡ごうとした瞬間__________!!
 その人物は現れた。

「リーチェ!」

 一人の青年が忽然と姿を現した。燃えるような赤毛と朱を灯した瞳。
 そう_______________

「ブルート=ファイアリー! 何故戻ってきたのじゃ……」

 リーチェが呆れたように言う。
 フィリアは唐突な敵の出現に動きを止めた。
 
「リーチェ、撤退だ。引けっ!」

 ブルートの言葉にリーチェは唖然とする。

「何故じゃ」
「ここでこの女と戦っても意味がない。王のご命令だ。
 何か用があるらしい! だから引けっ!」

 リーチェは「ちっ」と舌打ちすると、フィリアの方に顔を向けた。

「この決着はまた今度じゃ」

 フィリアは何も言わずに背を向けた。
 敵を倒すことにそれまでの執念がないと見える。
 リーチェはブルートと共にその姿をくらました。