ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Raising sun —ライジングサン— ( No.1 )
- 日時: 2009/12/08 19:38
- 名前: 青野月音 ◆aGDHPkqUjg (ID: bZS8tN2c)
プロローグ
——西暦三千年。
四つの大陸に分かれた大地『パンゲア』は、剣、魔術、科学の三つが交差する地。
そこでは、『国家騎士団』と『国家傭兵団』という、二つの組織が支配する世界。
騎士は名誉と誇りのため、傭兵は力と欲のため、互いに異なった思いを寄せながら、その刃を振るう。
これは、そんな戦場の地にて紡がれた、太陽のような眼差しをした、一人の若き傭兵の物語——。
- Re: Raising sun —ライジングサン— ( No.2 )
- 日時: 2009/12/08 19:39
- 名前: 青野月音 ◆aGDHPkqUjg (ID: bZS8tN2c)
『登場人物』
- Re: Raising sun —ライジングサン— ( No.3 )
- 日時: 2009/12/08 19:39
- 名前: 青野月音 ◆aGDHPkqUjg (ID: bZS8tN2c)
『敵』
- Re: Raising sun —ライジングサン— ( No.4 )
- 日時: 2009/12/08 19:40
- 名前: 青野月音 ◆aGDHPkqUjg (ID: bZS8tN2c)
battle 1 デイ・ウォーカー〜日の下を歩く者〜
燦々と輝く真昼頃。
紺色のコートを羽織り、背中に火炎剣(フランベルジェ)を背負う黒髪の少年『日野神太陽』と、彼と同じコートを着用し、クロスボウガンを片手に装備した赤髪の少女『霜月明日菜』の二人組は、とある任務にて小さな町に赴いていた。
「ここか……コロネっつー町は。しっかし、随分とまた辛気クセー町だなぁ」
「人が居ないね……」
辺りを見渡すが、人気が見られない。そればかりか、窓やカーテンがしっかりと閉められている。
目を合わせたくない、誰かと接触したくない。それ故の行為なのだろう。
すると突然——。
ドンッ!
「うおぉっ!?」
太陽にぶつかって来た一人の老人。
怒ることなどせず、太陽は老人に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「立てるか? 爺さん」
「あ……ああ……。大丈夫……」
しかしこの老人、彼らを見るなり、ビクビクと震え上がっている。
まるで自分たちを怖がっているかのように。
そんな老人を安心させようと、太陽が声をかけて宥める。
「落ち着け爺さん。俺らは傭兵だ。騎士なんかじゃねぇ。……この有り様は何なんだ? この町で、一体何があった?」
「…………」
老人は呼吸を整えると同時に、二人に語り出した。
「全て……帝国の……仕業なんだ」
「!?」
老人は、人が居なくなったのは帝国のせいだと言う。
さらに老人は、話を進める。
「元々帝国はあんなんじゃあ無かった! あの男が来てからだ! この町が可笑しくなったのは!」
「爺さん。そいつぁ誰なんだ?」
「…………アッサム=フォンバットという名だ」
——アッサム=フォンバット。『帝国軍』の現役隊長であり、『召喚剣士』の一人。
老人の話によると、アッサムは二ヶ月ほど前に、コロネの町へやってきたらしい。
その男は隊長格。自分の抱えている兵を引き連れ、町を自分の支配下に置いてしまった。それだけではない。
税の払えぬ者を連行し、牢獄に入れる始末。町の市長でさえ手に負えなくなっている状況だという。
町の人達は震撼し、アッサム軍に怯えながらの生活を強いられるようになった。
「頼む! アッサムを! 奴を殺してくれ! 奴さえ殺してくれるだけでいい!」
「根城は何処にあんだ、爺さん」
「北の方にあるが……君達、まさか!」
「親玉をぶっ潰す! だからここで待ってろよ、爺さん」
「行こう、ソル!」
「無茶だ! 二人であやつらに立ち向かうなんて無謀だ!」
明日菜の声で、太陽と明日菜は一緒に北の方角へと走り出す。
老人は二人を引きとめようと手を差し出すが、しだいに姿は遠くなっていった。
太陽と明日菜は城門の前へと到着した。門の前には兵が二人。守りは薄そうだ。
二人は木陰に身を隠しながら、コソコソと接近。背後から峰打ちを食らわす。
そして気付かれること無く、何とか二人は城内への侵入に成功したのであった。
一方、敵側では——。
「隊長! ご報告申し上げます!」
「騒々しいな……まぁいい。申せ」
血相を抱えて報告に参った兵の一人が、アッサムに話しかけた。
「朱色(あけいろ)の剣を持った黒髪の少年と、弓を使う赤髪の少女が、城内に侵入したとのことです!」
「……兵の状況は?」
「ほぼ……壊滅の危機に陥っております……」
「仕方ない……わたしも出向くとしよう……」
迫り来る兵を次々と薙ぎ倒し、太陽と明日菜は地下牢へとたどり着く。
牢の先には、子連れの母親から、中年の男性や年寄りなどが入れられていた。
鍵を開けている最中、「助けてくれ坊主!」「こっちにもお願いだぁ!」といった、五月蝿いほどの大声が耳に響く。
当然、見捨てはしない。太陽は少しペースを上げ、急ぎ気味に全ての鍵を一つ一つ開けて回る。
そして最後の鍵を開け終え、太陽はふぅっと一息。
「お疲れ、ソル」
「一つ一つ鍵開けんの疲れたな〜。後は、アッサムっつー奴を潰して——」
その時だった!
「アッサム=フォンバットというのは、わたしの事かね?」
「! 出やがったな!」
背後からの声に、二人は振り向く。
案の定そこへ立っていたのは、元凶であるアッサム。
青色の長髪に、中年の顔立ち。紛れもなく本物だ。
「よく来たね、傭兵諸君」
「残念だったな、隊長さんよぉ。人質は全員解放した。後はテメェだけだ!」
「くはははははは……分をわきまえん小僧が、偉そうな口を叩きよるわぁ! 【フォノン】!!」
アッサムの掌からは、火の玉が渦を巻くように、燃え盛っている。
その火の玉を、アッサムは太陽に向けて放った。
——だが。
「炎で俺が負けるか! 馬鹿がぁ!」
太陽は迫り来る火の玉へ、手を前に出し、力を解き放った!
「【炎の壁(フレイ・ウォール)】!」
渦巻く炎の弾丸と燃え盛る炎の壁がぶつかり合い、振動と爆風を同時に生み出す。
その僅かな隙を狙い、太陽と明日菜は地上へと階段を上っていった。
アッサムも同様に「逃がすか」と煙を払いのけながら、二人の行く先を追う。
道中、下級兵やアッサムとも接触することなく、二人は何とかして城の外へと脱出する。
だがその時だった! 二人の目の前には、アッサムの部下が横一列に並び、武器を構えている!
「ここまでだな……。貴様らをここで仕留めてくれる! かかれぇ!」
アッサムが手を前へ出すと同時に、手下の軍勢が一気に二人の方へ直進する!
「アスナ! 援護頼むぜ!」
「うん! 任せて、ソル!」
明日菜はクロスボウガンの引き金を引き絞り、少数の兵目掛けて、複数の矢を発射した!
「——【連射の雨(ラピッド・レイン)】」
幾本の矢は雨の如く、向かって来る軍勢へと降りかかる!
「ぐああぁぁ……!」「うわああぁぁ……!」
断末魔と同時に、アッサムの手下は見事に全滅。次々とうつ伏せに倒れ伏していく。
「ぐっ……! 無能共め……!」
「テメェの軍はもうお陀仏だ。残ってるのはもうお前だけだぜ?」
「一人だと……!? ふはははははは、笑わせてくれる! この力がある限り、わたしは最強なのだ! 見せてやる、我が召喚術を! 来い! ——【タウロス】!」
アッサムが指を鳴らすと同時に、二本足で歩く猛牛の化け物が、太陽の前へと現れた。
両手には、岩石をも容易く破壊するであろう、大きな戦斧(せんふ)が握られている。
「おぉ、デッケェなぁ……。丸腰は完全に無理だな。こいつを使うか!」
背中にある火炎剣を両手に取り、太陽は【タウロス】を睨み付ける。
その時、アッサムは太陽の剣を見た瞬間、驚愕し出す。そして、不敵な笑みを浮かべると、突然太陽の正体を口にする!
「先ほどの、詠唱破棄での術の発動……朱色の剣『火炎剣——フランベルジェ』。そうか……貴様は『デイ・ウォーカー』! 『国家傭兵団』の……【日野神太陽(ひのがみたいよう)】!!」
>>NEXT B
- Re: Raising sun —ライジングサン— ( No.5 )
- 日時: 2009/12/08 20:26
- 名前: 青野月音 ◆aGDHPkqUjg (ID: bZS8tN2c)
battle 1 ——B——
「そうか……貴様が持っていたのか……。——火炎剣『フランベルジェ』。並み居る敵を一薙ぎで燃やし尽くす豪剣! 良い物を持っている! 殺した上で奪ってやろう!」
「けっ……やって見ろよ!」
火炎剣を握り、太陽は目の前に居る【タウロス】に斬りかかった!
ガシャン! ガシャン!
ご自慢の俊敏さを活用し、【タウロス】を後退させていく太陽。
【タウロス】も、戦斧を振るう余裕が無く、太陽の攻撃をただ防ぐばかり。
そして遂に【タウロス】は憤怒の表情を見せ、戦斧を太陽の頭上へと降ろす!
だが——。
スッ!
岩砕の一撃を、太陽は横へと素早く回避。
斧を振り切った隙を見計らい、太陽は左腕に狙いを定め、力いっぱいに火炎剣を振るう!
「ぜぇやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
——ザンッ!!
左腕がゴトンと落ちたと同時に、鮮血が一気に噴き出す。
深い傷を手で押さえ、「ウガアアァァ!」と悲鳴を上げる【タウロス】。
その姿に、太陽は止めを刺そうと接近する。
【タウロス】もブチ切れたのか、片手で斧を取り、太陽に襲い掛かった!
だが、その攻撃も空しく——。
「【紅蓮斬】!」
火炎剣が振られたと同時に、剣に纏っている紅蓮の炎が、【タウロス】の体を焼き尽くす。
そして【タウロス】は悲鳴のような断末魔を上げ、手にしている武器とともに消し炭と化した。
アッサムの握っている召喚石が、パキィンと音を立てて砕け散る。
「う、嘘だ……!? わたしの【タウロス】が、こんな傭兵のガキに……!? ぐぅっ……くそ……くそおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
召喚獣を倒され、慌てふためくアッサム。
冷静さを失い、ただ乱心に身を任せ、ロングソードを太陽に向かって振るいまくる。
だが、動きは至って『ド三一(さんぴん)』。全て太陽の剣で防がれている。
攻撃をかわし切り、ガードの空いた顔面に、太陽は渾身のアッパーカットを一発!
仰け反るアッサムに追い討ちを掛けるが如く、続けて腹にローキックをお見舞いする!
吐血して、口に付着した血を拭うアッサムを見下ろすかのように、太陽は火炎剣の切っ先を、奴の顔へと宛がう。
「もう観念しろ。テメェの負けだ」
「観念だと……? 嘗めたことを……。あきらめん……。わたしはこれしきの事では諦めんぞぉ!」
アッサムはそう言い、目くらましの魔術【闇雲(ダーク・スモーク)】を使うと、そのまま太陽の元を立ち去ってしまう。
太陽も追いかけようとするが、煙幕が彼の視界を阻むため、足取りを追うことが出来ずに終わってしまった。
「ぐぅ……。傭兵なんぞの力に頼らずとも、街一つぐらいは制圧出来る! 人を殺めて金(きん)を肥やす殺人鬼の威を借りるなど、騎士の名折れだ!」
太陽からの追っ手を振り切り、アッサムは路地裏へと逃げ込んでいた。
息を切らしながら、跪き、壁に手を当てて呼吸を整える。だが、そんなアッサムの疲労状態にも関わらず、彼の目の前に、白銀色の髪を靡かせ、右手に太刀を携えた一人の女が立ちはだかる!
「……こんな馬鹿が国家を支える柱とはな……。こんな奴が騎士か……取るに足らない存在だな」
「! 貴様は【白銀の薔薇】の……『霜月瑠華』! くくくっ……覚悟おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「分を弁えろ……下種が!」
真正面から迎え撃つアッサムに対し、瑠華は冷徹な雷刃を振るう。
その刹那——。
ブシュウウウウゥゥゥゥ!
「ごぼぉっ……!」
腕、足、胴体に刻まれた傷。それと同時に、傷口から鮮血が水しぶきの如く噴出する。
そしてアッサムは、口から血の塊を吐き出すと、剣を握ったまま前のめりに突っ伏し、そのまま息絶えてしまった。
「貴様如き、私の相手にもならないんだよ……」
アッサムの死を確信し、瑠華は太刀を鞘に収めると、路地裏を何事も無いような顔で、その場を立ち去っていくのであった。
「ご苦労だったね。日野神福隊長。霜月三席」
「俺らは何もしてねぇよ。アッサムを殺ったのは『ウチ』の隊長様だ」
「そうです。私のおねえちゃ……いや……隊長です」
「お姉ちゃんで良い。それより、人質を解放しただけでも十分な手柄だった。良くやった方だよ」
本部に帰還し、総司令官に功績を称えられる太陽と明日菜。
彼の名は『神谷厳道』。四四歳。温厚でもあり厳しくもある、傭兵団の指揮を取る者として動いている。
——『国家騎士団』と『国家傭兵団』。国家を支える二つの柱が、ここ『パンゲア』の世界に存在している。
本隊に入るにはまず『瑠王学院』に入学する必要がある。
入学資格を与えられるのは十二から十五までの少年少女。
試験の内容は単純で、筆記と実技のみ。面接は無い。ただし、本格的に見られるのは、やはり実技面だ。
まず新入生は、入学時に学科を選ぶ。そして、必要以上の単位を取り、十六から二十歳までに卒業資格を得て、本隊に入ることが目的の教育組織なのだ。
尚、二十歳までに学院を出れなければ、入隊の意思が無い者とされ、退学処分とされてしまう。
入隊後は、各それぞれの小隊に配属され、指揮官の元に動く。
それが彼らの進路だ。
「ほい。報告書出来上がりました。総司令官殿」
アッサム討伐依頼の報告が書かれた書類。太陽はそれを神谷にすっと渡した。
報告書を拝見し、神谷は「確かに受け取ったよ」と笑顔を交わす。
そして、用事を終えた太陽と明日菜は「失礼しました」と声をかけ、司令官室を後にした。
明日菜と並んで歩いている途中、暇そうに太陽がぼやく。
「さぁて、仕事終わったし……。どうしようかね……」
「う〜ん……。そうだソル! 私の知ってるケーキ屋さんがあるんだけどね」
「そのケーキ屋何処にあんだ? 答えろ」
太陽は見かけによらずデザートが大好きな『スイーツ系男子』なのである。
ケーキ屋という単語に、素早く反応する太陽。咄嗟に食いついてくる太陽に、明日菜も少々苦笑する。
「焦らないで、ちゃんと教えるから。『ルドルフ』っていう店なんだよ」
「『ルドルフ』……早く行きてぇー! アスナ、早く行こうぜ!」
「うん! 行こ行こ!」
子供のようにはしゃぐ太陽の後を、明日菜は喜びながら彼についていった。
一方その頃……。アッサムの死を電話で聞き、密かにほくそ笑む少年がいた。その隣に少女もいる。
少年の方は『野宮理人』。緑の短髪に高価な眼鏡を掛けた、インテリを思わせる容姿。
少女の方は『森上神流』。鼠色の長髪に、レイピアと幅の大きい盾を携えた少女。
「そうか……うん……分かった」
ブツンッ。
「リヒト、どうしたの?」
「カンナ……アッサムが死んだらしいよ」
「知ってる。微かだけど、電話の声が聞こえたわ」
「呆気ない最後だったらしいよ。全く、国軍の隊長とあろう者が情けないね」
「仕方ないわよ。相手は先輩だったんだから。それに、日野神君や霜月さんもいたんですってね」
「日野神……あいつはぼくたちで倒さなきゃならない!」
「それはわたしだって同じよ。人を殺める事に躊躇いの無い殺人鬼は——わたしたちで始末する!」
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ソルを殺さんとする二人組、理人と神流……。彼に恨みが!?
次号、新キャラ二名登場です!