ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Raising sun —ライジングサン— ( No.4 )
- 日時: 2009/12/08 19:40
- 名前: 青野月音 ◆aGDHPkqUjg (ID: bZS8tN2c)
battle 1 デイ・ウォーカー〜日の下を歩く者〜
燦々と輝く真昼頃。
紺色のコートを羽織り、背中に火炎剣(フランベルジェ)を背負う黒髪の少年『日野神太陽』と、彼と同じコートを着用し、クロスボウガンを片手に装備した赤髪の少女『霜月明日菜』の二人組は、とある任務にて小さな町に赴いていた。
「ここか……コロネっつー町は。しっかし、随分とまた辛気クセー町だなぁ」
「人が居ないね……」
辺りを見渡すが、人気が見られない。そればかりか、窓やカーテンがしっかりと閉められている。
目を合わせたくない、誰かと接触したくない。それ故の行為なのだろう。
すると突然——。
ドンッ!
「うおぉっ!?」
太陽にぶつかって来た一人の老人。
怒ることなどせず、太陽は老人に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「立てるか? 爺さん」
「あ……ああ……。大丈夫……」
しかしこの老人、彼らを見るなり、ビクビクと震え上がっている。
まるで自分たちを怖がっているかのように。
そんな老人を安心させようと、太陽が声をかけて宥める。
「落ち着け爺さん。俺らは傭兵だ。騎士なんかじゃねぇ。……この有り様は何なんだ? この町で、一体何があった?」
「…………」
老人は呼吸を整えると同時に、二人に語り出した。
「全て……帝国の……仕業なんだ」
「!?」
老人は、人が居なくなったのは帝国のせいだと言う。
さらに老人は、話を進める。
「元々帝国はあんなんじゃあ無かった! あの男が来てからだ! この町が可笑しくなったのは!」
「爺さん。そいつぁ誰なんだ?」
「…………アッサム=フォンバットという名だ」
——アッサム=フォンバット。『帝国軍』の現役隊長であり、『召喚剣士』の一人。
老人の話によると、アッサムは二ヶ月ほど前に、コロネの町へやってきたらしい。
その男は隊長格。自分の抱えている兵を引き連れ、町を自分の支配下に置いてしまった。それだけではない。
税の払えぬ者を連行し、牢獄に入れる始末。町の市長でさえ手に負えなくなっている状況だという。
町の人達は震撼し、アッサム軍に怯えながらの生活を強いられるようになった。
「頼む! アッサムを! 奴を殺してくれ! 奴さえ殺してくれるだけでいい!」
「根城は何処にあんだ、爺さん」
「北の方にあるが……君達、まさか!」
「親玉をぶっ潰す! だからここで待ってろよ、爺さん」
「行こう、ソル!」
「無茶だ! 二人であやつらに立ち向かうなんて無謀だ!」
明日菜の声で、太陽と明日菜は一緒に北の方角へと走り出す。
老人は二人を引きとめようと手を差し出すが、しだいに姿は遠くなっていった。
太陽と明日菜は城門の前へと到着した。門の前には兵が二人。守りは薄そうだ。
二人は木陰に身を隠しながら、コソコソと接近。背後から峰打ちを食らわす。
そして気付かれること無く、何とか二人は城内への侵入に成功したのであった。
一方、敵側では——。
「隊長! ご報告申し上げます!」
「騒々しいな……まぁいい。申せ」
血相を抱えて報告に参った兵の一人が、アッサムに話しかけた。
「朱色(あけいろ)の剣を持った黒髪の少年と、弓を使う赤髪の少女が、城内に侵入したとのことです!」
「……兵の状況は?」
「ほぼ……壊滅の危機に陥っております……」
「仕方ない……わたしも出向くとしよう……」
迫り来る兵を次々と薙ぎ倒し、太陽と明日菜は地下牢へとたどり着く。
牢の先には、子連れの母親から、中年の男性や年寄りなどが入れられていた。
鍵を開けている最中、「助けてくれ坊主!」「こっちにもお願いだぁ!」といった、五月蝿いほどの大声が耳に響く。
当然、見捨てはしない。太陽は少しペースを上げ、急ぎ気味に全ての鍵を一つ一つ開けて回る。
そして最後の鍵を開け終え、太陽はふぅっと一息。
「お疲れ、ソル」
「一つ一つ鍵開けんの疲れたな〜。後は、アッサムっつー奴を潰して——」
その時だった!
「アッサム=フォンバットというのは、わたしの事かね?」
「! 出やがったな!」
背後からの声に、二人は振り向く。
案の定そこへ立っていたのは、元凶であるアッサム。
青色の長髪に、中年の顔立ち。紛れもなく本物だ。
「よく来たね、傭兵諸君」
「残念だったな、隊長さんよぉ。人質は全員解放した。後はテメェだけだ!」
「くはははははは……分をわきまえん小僧が、偉そうな口を叩きよるわぁ! 【フォノン】!!」
アッサムの掌からは、火の玉が渦を巻くように、燃え盛っている。
その火の玉を、アッサムは太陽に向けて放った。
——だが。
「炎で俺が負けるか! 馬鹿がぁ!」
太陽は迫り来る火の玉へ、手を前に出し、力を解き放った!
「【炎の壁(フレイ・ウォール)】!」
渦巻く炎の弾丸と燃え盛る炎の壁がぶつかり合い、振動と爆風を同時に生み出す。
その僅かな隙を狙い、太陽と明日菜は地上へと階段を上っていった。
アッサムも同様に「逃がすか」と煙を払いのけながら、二人の行く先を追う。
道中、下級兵やアッサムとも接触することなく、二人は何とかして城の外へと脱出する。
だがその時だった! 二人の目の前には、アッサムの部下が横一列に並び、武器を構えている!
「ここまでだな……。貴様らをここで仕留めてくれる! かかれぇ!」
アッサムが手を前へ出すと同時に、手下の軍勢が一気に二人の方へ直進する!
「アスナ! 援護頼むぜ!」
「うん! 任せて、ソル!」
明日菜はクロスボウガンの引き金を引き絞り、少数の兵目掛けて、複数の矢を発射した!
「——【連射の雨(ラピッド・レイン)】」
幾本の矢は雨の如く、向かって来る軍勢へと降りかかる!
「ぐああぁぁ……!」「うわああぁぁ……!」
断末魔と同時に、アッサムの手下は見事に全滅。次々とうつ伏せに倒れ伏していく。
「ぐっ……! 無能共め……!」
「テメェの軍はもうお陀仏だ。残ってるのはもうお前だけだぜ?」
「一人だと……!? ふはははははは、笑わせてくれる! この力がある限り、わたしは最強なのだ! 見せてやる、我が召喚術を! 来い! ——【タウロス】!」
アッサムが指を鳴らすと同時に、二本足で歩く猛牛の化け物が、太陽の前へと現れた。
両手には、岩石をも容易く破壊するであろう、大きな戦斧(せんふ)が握られている。
「おぉ、デッケェなぁ……。丸腰は完全に無理だな。こいつを使うか!」
背中にある火炎剣を両手に取り、太陽は【タウロス】を睨み付ける。
その時、アッサムは太陽の剣を見た瞬間、驚愕し出す。そして、不敵な笑みを浮かべると、突然太陽の正体を口にする!
「先ほどの、詠唱破棄での術の発動……朱色の剣『火炎剣——フランベルジェ』。そうか……貴様は『デイ・ウォーカー』! 『国家傭兵団』の……【日野神太陽(ひのがみたいよう)】!!」
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