ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Raising sun —ライジングサン— ( No.5 )
日時: 2009/12/08 20:26
名前: 青野月音 ◆aGDHPkqUjg (ID: bZS8tN2c)

battle 1 ——B——










「そうか……貴様が持っていたのか……。——火炎剣『フランベルジェ』。並み居る敵を一薙ぎで燃やし尽くす豪剣! 良い物を持っている! 殺した上で奪ってやろう!」
「けっ……やって見ろよ!」

火炎剣を握り、太陽は目の前に居る【タウロス】に斬りかかった!





ガシャン! ガシャン!

ご自慢の俊敏さを活用し、【タウロス】を後退させていく太陽。
【タウロス】も、戦斧を振るう余裕が無く、太陽の攻撃をただ防ぐばかり。
そして遂に【タウロス】は憤怒の表情を見せ、戦斧を太陽の頭上へと降ろす!
だが——。

スッ!

岩砕の一撃を、太陽は横へと素早く回避。
斧を振り切った隙を見計らい、太陽は左腕に狙いを定め、力いっぱいに火炎剣を振るう!

「ぜぇやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

——ザンッ!!

左腕がゴトンと落ちたと同時に、鮮血が一気に噴き出す。
深い傷を手で押さえ、「ウガアアァァ!」と悲鳴を上げる【タウロス】。
その姿に、太陽は止めを刺そうと接近する。
【タウロス】もブチ切れたのか、片手で斧を取り、太陽に襲い掛かった!
だが、その攻撃も空しく——。

「【紅蓮斬】!」

火炎剣が振られたと同時に、剣に纏っている紅蓮の炎が、【タウロス】の体を焼き尽くす。
そして【タウロス】は悲鳴のような断末魔を上げ、手にしている武器とともに消し炭と化した。
アッサムの握っている召喚石が、パキィンと音を立てて砕け散る。

「う、嘘だ……!? わたしの【タウロス】が、こんな傭兵のガキに……!? ぐぅっ……くそ……くそおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

召喚獣を倒され、慌てふためくアッサム。
冷静さを失い、ただ乱心に身を任せ、ロングソードを太陽に向かって振るいまくる。
だが、動きは至って『ド三一(さんぴん)』。全て太陽の剣で防がれている。
攻撃をかわし切り、ガードの空いた顔面に、太陽は渾身のアッパーカットを一発!
仰け反るアッサムに追い討ちを掛けるが如く、続けて腹にローキックをお見舞いする!
吐血して、口に付着した血を拭うアッサムを見下ろすかのように、太陽は火炎剣の切っ先を、奴の顔へと宛がう。

「もう観念しろ。テメェの負けだ」
「観念だと……? 嘗めたことを……。あきらめん……。わたしはこれしきの事では諦めんぞぉ!」

アッサムはそう言い、目くらましの魔術【闇雲(ダーク・スモーク)】を使うと、そのまま太陽の元を立ち去ってしまう。
太陽も追いかけようとするが、煙幕が彼の視界を阻むため、足取りを追うことが出来ずに終わってしまった。

「ぐぅ……。傭兵なんぞの力に頼らずとも、街一つぐらいは制圧出来る! 人を殺めて金(きん)を肥やす殺人鬼の威を借りるなど、騎士の名折れだ!」

太陽からの追っ手を振り切り、アッサムは路地裏へと逃げ込んでいた。
息を切らしながら、跪き、壁に手を当てて呼吸を整える。だが、そんなアッサムの疲労状態にも関わらず、彼の目の前に、白銀色の髪を靡かせ、右手に太刀を携えた一人の女が立ちはだかる!

「……こんな馬鹿が国家を支える柱とはな……。こんな奴が騎士か……取るに足らない存在だな」
「! 貴様は【白銀の薔薇】の……『霜月瑠華』! くくくっ……覚悟おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「分を弁えろ……下種が!」

真正面から迎え撃つアッサムに対し、瑠華は冷徹な雷刃を振るう。
その刹那——。

ブシュウウウウゥゥゥゥ!

「ごぼぉっ……!」

腕、足、胴体に刻まれた傷。それと同時に、傷口から鮮血が水しぶきの如く噴出する。
そしてアッサムは、口から血の塊を吐き出すと、剣を握ったまま前のめりに突っ伏し、そのまま息絶えてしまった。

「貴様如き、私の相手にもならないんだよ……」

アッサムの死を確信し、瑠華は太刀を鞘に収めると、路地裏を何事も無いような顔で、その場を立ち去っていくのであった。










「ご苦労だったね。日野神福隊長。霜月三席」
「俺らは何もしてねぇよ。アッサムを殺ったのは『ウチ』の隊長様だ」
「そうです。私のおねえちゃ……いや……隊長です」
「お姉ちゃんで良い。それより、人質を解放しただけでも十分な手柄だった。良くやった方だよ」

本部に帰還し、総司令官に功績を称えられる太陽と明日菜。
彼の名は『神谷厳道』。四四歳。温厚でもあり厳しくもある、傭兵団の指揮を取る者として動いている。

——『国家騎士団』と『国家傭兵団』。国家を支える二つの柱が、ここ『パンゲア』の世界に存在している。
本隊に入るにはまず『瑠王学院』に入学する必要がある。
入学資格を与えられるのは十二から十五までの少年少女。
試験の内容は単純で、筆記と実技のみ。面接は無い。ただし、本格的に見られるのは、やはり実技面だ。
まず新入生は、入学時に学科を選ぶ。そして、必要以上の単位を取り、十六から二十歳までに卒業資格を得て、本隊に入ることが目的の教育組織なのだ。
尚、二十歳までに学院を出れなければ、入隊の意思が無い者とされ、退学処分とされてしまう。

入隊後は、各それぞれの小隊に配属され、指揮官の元に動く。
それが彼らの進路だ。

「ほい。報告書出来上がりました。総司令官殿」

アッサム討伐依頼の報告が書かれた書類。太陽はそれを神谷にすっと渡した。
報告書を拝見し、神谷は「確かに受け取ったよ」と笑顔を交わす。
そして、用事を終えた太陽と明日菜は「失礼しました」と声をかけ、司令官室を後にした。
明日菜と並んで歩いている途中、暇そうに太陽がぼやく。

「さぁて、仕事終わったし……。どうしようかね……」
「う〜ん……。そうだソル! 私の知ってるケーキ屋さんがあるんだけどね」
「そのケーキ屋何処にあんだ? 答えろ」

太陽は見かけによらずデザートが大好きな『スイーツ系男子』なのである。
ケーキ屋という単語に、素早く反応する太陽。咄嗟に食いついてくる太陽に、明日菜も少々苦笑する。

「焦らないで、ちゃんと教えるから。『ルドルフ』っていう店なんだよ」
「『ルドルフ』……早く行きてぇー! アスナ、早く行こうぜ!」
「うん! 行こ行こ!」

子供のようにはしゃぐ太陽の後を、明日菜は喜びながら彼についていった。










一方その頃……。アッサムの死を電話で聞き、密かにほくそ笑む少年がいた。その隣に少女もいる。
少年の方は『野宮理人』。緑の短髪に高価な眼鏡を掛けた、インテリを思わせる容姿。
少女の方は『森上神流』。鼠色の長髪に、レイピアと幅の大きい盾を携えた少女。

「そうか……うん……分かった」

ブツンッ。

「リヒト、どうしたの?」
「カンナ……アッサムが死んだらしいよ」
「知ってる。微かだけど、電話の声が聞こえたわ」
「呆気ない最後だったらしいよ。全く、国軍の隊長とあろう者が情けないね」
「仕方ないわよ。相手は先輩だったんだから。それに、日野神君や霜月さんもいたんですってね」
「日野神……あいつはぼくたちで倒さなきゃならない!」
「それはわたしだって同じよ。人を殺める事に躊躇いの無い殺人鬼は——わたしたちで始末する!」










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ソルを殺さんとする二人組、理人と神流……。彼に恨みが!?
次号、新キャラ二名登場です!