ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 4. ( No.5 )
- 日時: 2009/12/24 17:27
- 名前: 六 ◆BbBCzwKYiA (ID: IJ2q7Vk/)
「……お前さ」
少し驚いたような様子で彼は言う。
「何でそんなに、落ち着いていられるんだ?」
「…え?」
「いや…もう直ぐ死ぬって言われたのにさ。つーかすることが無いって…」
——ああ、そうか。
彼は、私が生贄である事は知っているけれど、その他の事は何も知らないも同然なのだ。
私が「神の子」…つまり生贄となることを決められたその数年後に生みの親から引き離された事、育ててくれた人とも数えるほどしか会っていない事、このまま生きていても友達もいない、学校にも行っていない私がまともに生きていける訳が無い事を話した。
そんな事は私を生贄と決めたあの神官と、私の生みの親と育ての親しか知らない事だったし、誰にも話そうとは思わなかった。
でも、目の前にいる彼には話してもいい。
そんな気が、した。
まだ名前も知らないただの顔見知りに、何故そう思えるのか、私には分からなかった。
そうこうしている内に、彼は口を開いていた。
「俺は、そんなもの無くてもまとも…じゃないけど、普通に生きられてるけどな。」
「世の中には、そういうものが無いと生きて行けない人もいるのよ」
私がそう言うと、「分かんないな。俺にはサッパリ分からない」そう言い、大袈裟にため息をついた。
「人間って……つくづく面倒くさい物なのよね。私も人間だけれど」
「ま、少なくとも他の生き物よりは格段に面倒くさい生き物だな。」
彼は言葉で同意を示し、窓に向かって背を向けた。
彼が持つ黒い翼の全体が私に見える。まるで、この世に存在する全ての闇を集めたような闇の色。
見つめていると、吸い込まれてしまいそうなそれは、まるで私を丸ごと飲み込もうとしているようだった。
彼の声で、永遠の夢のような一瞬から目が覚めた。
「……オレはもう行くぞ。今日は知り合いがこっちに来るんだ」
「…そう」
短く返事を返すと、彼は別れの一言も残さずに白い部屋から消えた。
……確かにあの時、私は闇の色の中に覚えているはずも無い本当の親との記憶を思い出していた。
それは、まだ何も知らない、何も分からない自分と、顔の分からない二人の男性と女性が遊んでいる姿だった。
「……お父さん、お母さん」
いつの間にか、小さくそう呟いていた。