ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: *。___Bloody rose ( No.3 )
- 日時: 2009/12/12 10:47
- 名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)
*。Ⅲ 異例
シャン________シャン________
静寂の中に、鈴の音が響きわたる。
夢想村の神社の境内で、一人の老女が鈴を手に、舞う。
気のせいか、その姿は暗闇の中で、ぼんやりと光ってみえた。そばには男が一人、座っている。
「いかがですか?大婆様」
男が問いかけると、[大婆様]と呼ばれた老女は眉間にしわを寄せた。
そしてその目をぱっと開き、それと同時に大声をあげた。
「見えた!!」
老女はそのままぴくりともせず、再び瞳を閉ざした。
「お告げじゃ……。選ばれし者が……。これは、異例じゃ……」
「どうされたのですか?」
男が落ち着いた声で訊いた。それに老女は口を開く。
「選ばれし者が……三人……」
「三人!?」
男は驚愕し、それを顔に表した。 老女は静かに言葉を紡ぎだす。
「一人目は、[星幻雫(ホシ カンナ)]
村外れに母親と二人暮らししておる十四才の少女じゃ」
「星、幻雫」
男が繰り返し、老女は頷いた。そして、二人目の名を口にする。
「二人目は、[飛翔叶夜(ヒショウ キョウヤ)]十四才。
あの、宿屋の子じゃ」
「叶夜なら存じております」
男は苦しそうに眉をひそめた。
村の者達にとって、この儀式に選ばれることは、“死”を意味するのだから。
「三人目は……[桜桃杏樹(ユスラ アンジュ)]
そなたの娘じゃ。流よ」
「杏樹が!?」
男は大声をあげて立ち上がりかけ……やめた。老女も、悲しそうな顔をしていたからだ。
男はあきらめたように座ると、姿勢を正した。
「では、伝えに行って参ります」
「ああ……。私は疲れた。しばし休むとしよう」
老女はそう言うと、部屋の奥に静かに消えていった。
男もそれを見届けてから立ち上がり、その場を去った。
明日は満月。一年に一度の十五夜の日。
その予兆のように月は異常なほど明るく光り、村全体を包みこむ。
男はそれを見上げて何か考えこむと、再び前を見据え、足を進めた。