ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: *。___Bloody rose ( No.4 )
- 日時: 2009/12/12 10:47
- 名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)
*。Ⅳ 「定め」
コンコン——コンコン——
杏の父、桜桃流は[星]と表札のさがった村外れの小屋の戸をたたいた。
「はーい」という声がして、しばらくすると、一人の少女が扉を開けた。
「何か御用ですか?」
大婆様の言う通り、十四才くらいであろう。
まだ少しあどけなさの残る顔をしている。
「はい。そうですが……」
幻雫は怪訝そうな顔をして流を見た。
自分を見つめる透き通った青い瞳を見て、流は少し躊躇したが、それを伝える。
「明日は……十五夜ですね」
それを聞いた幻雫ははっとして、見る見るうちに顔が青ざめていった。
十五夜、その言葉が意味するものは、あの儀式。
幻雫はそれを一瞬にして理解したのであろう。
「詳しいことは中でお話したいのですが」
流が言うと、幻雫は茶色がかった髪をゆらし、中へと招きいれた。
小屋の中には部屋が二部屋しかなく、相当貧乏なのだと言うことが見てとれる。
案内された方の部屋には布団がひかれていた。
「お母さん、お客様だよ」
少女は横になる母へと声をかけた。
幻雫の母は重い病をわずらっていて、ほとんど寝たきりなのだ。
「幻雫さんのお母様ですね」
流は重々しい口調で告げる。
「明日の十五夜に……幻雫さんが選ばれたのです」
単純に、明確に、事実だけを伝える。
それが、この役目を果たしてきて、流が得た答えだった。
余計な哀れみなどの感情はいらない。自分はただ伝えるだけ。
ただそれだけ。実に嫌な役目だ。
選ばれし者に死の宣告をする……死神のようなものだ。
「そうですか……」
幻雫の母は小さく言った。その言葉に、感情はこめられていなかった。
「あの、私がいなくなったら、母さんはどうなるのですか!?」
幻雫は必死に問う。自分のことなど考えずに。
「大丈夫。君のお母さんのことはまかせていい」
流は力強く言った。選ばれた者のために、自分にできる限りのことをしようと思った。
幻雫は少しほっとしたような顔をした。
自分のことよりも母のことを心配する……心の優しい子なのだろう。
「それより、今回の儀式なのだが……。
選ばれたのは幻雫さんだけではないのです」
この言葉を聞いた幻雫とその母は、驚愕の表情をした。
「幻雫だけではないのですか……?」
幻雫の母が驚いた表情のまま流に問う。
幻雫は信じられないとでも言うように口をぽかんと開いたままぴくりともしない。
「なぜかはわからないのですが、大婆様のお告げでは、三人の者が選ばれたというのです。
あとの二人とは、明日森へ行く時に顔を合わせるでしょう。
では明日の夜、森前の広場で待っています」
流はそう言うと、出て行った。 幻雫はただただ呆然としていた。
まさか自分が選ばれるなんて……考えたこともなかった。
こんなに簡単に、日常は崩れさってしまうものだなんて、知らなかった。
「幻雫、よく聞きなさい」
幻雫の母は静かな声で言う。
幻雫は真剣な顔になり、耳を傾けた。
「これは……定めです。この村に住んでいる以上、避けられぬものなのです。
これまで、それを覚悟の上で暮らしてきたでしょう。
私のことは気にしないで。あなたはお行きなさい」
幻雫はその言葉を聞き、母に抱きついた。胸に顔をおしつけ、鳴咽をもらす。
母は……そんな幻雫を強く、強く抱きしめた。その頬を涙が一筋、静かに伝った。