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Re: *。___Bloody rose ( No.6 )
日時: 2009/12/19 10:03
名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)

*。Ⅵ 「家族の気持ち」

 「はぁ……」

 幻雫の家からでた流は、深くため息ついた。
 自分が“十五夜”と口にした時の幻雫の顔。あんな顔をさせたくはなかったのに……。
 これまで嫌と言うほどあんな表情を見てきた。もうこんな仕事、やめてしまいたい。

 流はそんなことを思っているうちに、
 二人目の選ばれし者、[飛翔叶夜]の家に着いた。
 叶夜の家は村唯一の宿屋で、めったに客は来ないが、
 たまに[Rose]を探しに村にくる人を泊めている。

 ガラガラッ—————

 「いらっしゃ……あら、流」

 入り口の戸を開けると、叶夜の母が出向かえた。
 いかにも“女将”という風な着物を纏い、髪はひっつめにしている。
 これでも昔は相当のおてんば娘だったそうだ。
 流と叶夜の母は幼なじみなのだ。

 「菰……非常に言いにくいのだが……」

 流は叶夜の母、[飛翔 菰ヒショウ マコモ]の笑顔を見て、伝えることを躊躇した。
 が、これは神主である自分の役目。責任を持って果たさなければならない。

 「菰、落ち着いてきいてくれ……」
 「何?」

 菰は思いつめたような表情の流を見て、何かを察したのだろう。
 真剣な顔になって、言葉に耳を傾ける。

 「実は、叶夜が……明日の十五夜に選ばれたんだ……」
 「…………え?」

 菰は、何を言っているのかわからないと言う感じだ。
 
 「十…五夜。叶……夜が?」

 流は静かにうなずく。菰は目を見開いたまま動かない。

 「そんな……。叶夜はまだ子供なのに……」
 「杏だって……まだ十二才だ……」

 実際に言葉にすると、目頭が燃えるように熱くなり、涙が込み上げてきた。
 流は、溢れでてきそうになる涙を必死にこらえる。

 「今年は、三人の子供が選ばれたんだ。異例なんだよ……」
 「三人も……。どうして?叶夜は何もしてないのに……」

 菰は呆然として、さっきの幻雫と全く同じ表情をした。
 流は、幼なじみのそんな顔を見たくはなく、ぎゅっと瞳を閉じると口を開いた。

 「明日の夜……森前の広場に集合してくれ」

 流はそう言うが早いか、逃げるように飛翔家を去った。後は杏に伝えるだけ……。


 まだ子供なのよ———— 

 どうして?何もしてないのに————


 菰の言葉が、頭にこびりついて離れない。
 どうして自分の子が選ばれなければならないのか。
 きっと、これまで選ばれた人も、その家族も、同じことを思っただろう。

 そして、自分は平和を壊す死神……。流はため息をついた。
 今流は、これまで自分が平穏を崩した人と同じ立場にいる。
 選ばれる側に立って、初めて残される者の気持ちを知る。
 心臓をぎゅっとつかまれるような……。
 悲しい、苦しい、寂しい、全ての気持ちが一つになって、絶望を生み出す。

 流はそんなことを考えながら、娘の待つ神社へと、足を進めた。