ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: *。___Bloody rose ( No.7 )
- 日時: 2009/12/12 10:52
- 名前: (( `o*架凛 ◆eLv4l0AA9E (ID: 81HzK4GC)
*。Ⅶ 「叶わぬ願い」
「ただいま」
流は、重々しく言う。途端にどたばたと音がして、娘である杏樹がでてきた。
「お帰り、お父さん」
杏樹は言い、とびっきりの笑顔を見せる。
この笑顔を壊すなんて……自分にはできない……。流は思った。
だが、神主の娘だからといって例外はないのだ。
「杏。話があるんだ」
父の何かを感じとったのか、杏樹は静かに口を開いた。
「な、なに?」
「中で話そう」
流はそういうと、杏樹の背に手を添え、部屋の中へとはいっていった。
流と杏樹は、机を挟んで向かい合わせに座る。
「杏樹……あのな」
流が話し始めようとした時、杏樹が思いがけないことを口にした。
「わかってるよ」
「…………え?」
流は唖然とした。選ばれし者は大婆様と自分しか知らないはず。
杏樹はまだ知っているはずもないのだ。
「どういうことだ……」
「私……未 来 が 見 え る の」
杏樹は少しうつむきうつむきながら言った。
流はそれほど驚いたそぶりも見せずに言った。
「やはり……。大婆様の血をひいているから……」
そう。杏樹の母は、杏樹がまだ幼いころ、十五夜の晩に選ばれ姿を消した。
その母の母、つまり杏樹の祖母が大婆様と呼ばれる人物なのだ。
桜桃家は、先祖代々夢想神社の神主として、親から子へと受け継がれてきた。
大婆様の名は知られていないが、代々この神社の巫として受け継いできたと言う。
男子なら神主、女子なら巫。どちらにしろ、将来は決められている。
杏樹は将来、神社の巫を継いでくれればと願っていたが
だが今になってはそれももう叶わぬ願いとなってしまった。
未来が見えるというのは巫の力の一つだろう。
「まだ不安定なんだけど……。
月が紅く輝いてて、私は誰かと森の広場にいて……。
父さんがいて……。そうかなって思ったの」
「そうか……」
流は本日三度目のため息をついた。
選ばれて、杏樹はいったい何を思っているだろうか。
悲しい?寂しい?自分を哀れむ?
杏はいつも笑顔で自分の気持ちを隠そうとしているように見える。気のせいだろうか……。
そして杏樹は、また笑う。
「村のしきたりだもん。しょうがないよね!私、もう寝るね」
「あ、ああ。おやすみ杏樹」
「おやすみ、父さん」
杏樹はそう言うと、自分の部屋へ行ってしまった。
流はしばらくじっと動かず何かを考えこむと、自分も休息をとるために立ち上がった。