ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 黒の惨状 ( No.14 )
日時: 2009/12/13 19:49
名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)

第八話



 「あれを見ろ…」

 老人は小声で言う。一同は「抹殺地帯」の端へ来ていた。

 「警察派…だな…」

 案の定、「敵」は居た。
 しかし映画で見るような軍隊の服装で銃を持ち、綺麗に並んでいるわけでなく、スーツのような服装に、キャップ帽を全員被っていた。全員同じ格好をしているため、分身のようにも見えた。

 「あっちの方を見てみろ」

 老人が顔でふっと指す方向を見ると、大通りにあった大砲と同じようなものが一つ見えた。

 「一つじゃないのか…あれ」
 「……!」

 皐月は初めてお目にかかった常識やぶりのそれに、思わず生唾を飲んだ。

 「さて…どうするか」

 老人は腕を組んだ。秋久も皐月も、ばれないよう状況を確認しながら考える。
 視界で確認できる大まかな人数はざっと三十人。その中でも車が五大ほどあり、大きなトラックから軽自動車まである。乗車中にも人がいる可能性は十分ある。

 人の中に少数人だが、スーツの人物がいた。この人達は帽子も被っていないため、素顔が露になっている。帽子軍団の中心で何か話している姿から、指揮官のようなものだと思われた。
 武器を持っている人も何人か居た。いや、全員懐には拳銃を持っているはずだ。しかし大きなライフルのようなものも持っている人がいた。遠くで見つけたまだ生きている「政府派」の人間を殺す為だろうか。

 「あの車を奪って逃げられないかな…」

 皐月がぼそっと呟いた。老人と秋久は同時に顔を上げる。

 「いや、それは危険すぎるだろ」

 人数的にも敵わないし、向こうは武器を持っている。無謀すぎる。

 「あ、ただふと思っただけだから。鵜呑みにしないで!」

 皐月は大きく手を振った。しかし老人は、真剣な顔をして言う。

 「結果的にはそうなるだろうな」
 「…!」
 「そんな…こと…!」
 無謀、イコール死。その言葉が秋久の中で渦巻く。

 「じゃあ他に方法があるのか?この地帯、東西南北ガードされ、ここから逃亡する方法が」

 そう言われると何も言い返せない。秋久と皐月は黙り込む。やはり命をかけて逃げ出すしか、それしか方法は無いのか。秋久は必死で確実性の高い方法を考え巡らせていた。人間はいつだって危険から逃れたがるものだ。

 「おい小僧。銃はいくつある」
 「二つだ。火炎爆弾式の小型ライフルと、弾丸のリボルバーだ。あと予備の弾がいくつか」

 秋久はそう言って荷物から銃器を取り出す。老人はリボルバーを手に取った。すると皐月は気のせいか、俯いたように見えた。人を殺す道具など、平常心で見れるわけもないが。

 「俺はできるだけ人を惹きつける。が、都合よく車が無人になるとは考えにくい。だから一人になった車を狙え。そこら辺にある鉄骨か何かでぶん殴って気絶させれば良い。
 そしてこのライフルで車周辺を炎上させろ。近づけないようにな。これは上手くいけばの話だが、相手も武器で応戦してくる。その時は撃て。遠慮なく」

 そう言って老人はリボルバーの弾数を確認し、秋久へ渡した。

 「…!あんたはどうするんだよ」

 武器無しで歯向かう?死にたいのか、そう思った。

 「せめてこれ持てよ」

 秋久はリボルバーを再び老人へ渡した。

 「お前が撃たれたら元も子もないだろう。この娘も殺す気か?」

 秋久は皐月を見た。不安そうに二人を見つめる皐月。そして拳を強く握り締めていた。

 「…足は引っ張らないように頑張るから」

 皐月は小さな声で言った。その声は秋久の中の何かを、覚醒させた気がした。

 「……本当どうかしてるよ…この国」

 フッと哂う。老人も目を細くした。哂っているようにも見えた。

 「時間は無い。さっそとやるぞ。生死の事も考えられないほどのスピードが勝負だ。奴らは生死について考えている限り、そうすりゃ勝てる」
 「恐怖?」
 「ああそうだ」
 「私、怖いな…」
 「大丈夫だ。その小僧がついてる」

 老人は皐月に笑いかけた。皐月も微笑する。

 「全員で、ここから逃げよう」

 それが生きる事に繋がる。