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Re: 黒の惨状 ( No.15 )
日時: 2009/12/13 19:48
名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)

第九話



 物陰から息を潜めてひたすらその「時」を待っていた。
 大砲を中心に物々しい雰囲気の男達が、淡々と動いている。すべてはこの地帯を抹消する為に。

 「お前は全体の動きを掴め……。俺は出て行けば騒動になる事は間違いないからな……」

 老人が薄い音量で言う。秋久は不安で今にも狂いそうになったが、緊張の糸がなんとか自分を支えてくれていた。

 「老人……やっぱり無理じゃないか……?一人で、こんな」
 「煩い」

 秋久は黙った。斜め上の老人の横顔を見る。
 皴は多く、目も虚ろ。そんな目でちゃんと見えているのか、と思った。瞬きもせず、一点を見据えているようだった。
 周囲の声が小さい音量で聞こえる。時折、機械の轟音も響いた。空は青く、真上に雲はない。その両サイドに場違いのように一つずつ雲があった。

 ———俺は。

 秋久の中で、すとんと考えが生まれた。今まで何もかもがむしゃらにやってきたせいで、深く考える時間は無かった。
 いや、今こそのんきに考えている場合では無いはずが、唐突に考えが生まれた。

 風が。

 風が横切った。黒く、どこか懐かしい香りを漂わせた風が。
 秋久は皐月が自分の服の裾を、手で強く握ったのが分かった。

 「行くぞ」

 老人は風のように飛び出ていった。
 その途端、一人の兵が呻き声をあげ、倒れた。老人が頭を勢いよく殴ったのだ。老人はすぐさま兵の銃を手に持つ。そしてその光景を呆然と見ていた近くの兵も、銃で殴った。また一人、倒れていく。

 秋久の裾を引っ張るように皐月は力をいれていた。秋久は硬直していた。

 一人の兵が老人に向かって発砲する。老人も振り向き、発砲した。それが兵の手に当たった。また一人、声をあげ老人に向かって発砲する者が居た。老人はその兵に向かって勢いよくスライディングする。足に蹴りを入れられた兵は、その場で勢いよく倒れこんだ。
 老人はすぐに立ち上がり、銃弾を低い姿勢で避けていく。

 「…くん!宮城くん…!」

 皐月は悲鳴のように声を絞りだす。秋久は我に帰った。
 秋久は視線を動かす。すでに人は入り乱れていた。老人の登場により、想像以上に混乱を招いていた。

 「…!」

 その時、車から一人の男が降りていった。もう一人の男と話し、銃を持ち車を出て行った。その車は、騒動から少し離れた場所にある。

 「あれしかない…!」

 全力疾走で皐月の手をひき、建物を繋ぎ隠れながら、その車に近づく。秋久は視線の中心を車に向けたまま、銃を取り出す。