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Re: 黒の惨状 ( No.2 )
日時: 2009/12/13 18:17
名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)

 じわじわと、日を重ねるごとに殺しは増えていった。
 秋久はそんな世に不安を感じつつも、どこか他人行儀な気持ちしか持ち合わせていなかったある日のことだった。

 忘れもしない、あれは先月の頭だった。
 「警察派」に身を置く秋久に、通知が届いた。その通知を、母親と一緒に父の仏壇の前で読みあげていった。驚きで声も出なかった。

 十五歳の秋久に、徴兵令が下ったのだ。

 一ヶ月訓練を受け、訓練が終わり次第、武器を持ち戦うのだと。
 なんの冗談だと最初は訳の分からない笑いが出てきたが、通知が届いた三日後には役人が訪れ、一ヶ月の訓練を受けるのだと書いてあったことを何度も読み返した。
 家族にも会えず、ただ一人、訓練に励むのだ。

 馬鹿馬鹿しい。なんの冗談だ。今は平成だぞ——。秋久は動揺を隠せなかった。兵としてなど行きたくなかった。父親も早くに他界し、兄も居ないのに、母を独りにするのは、なんとも心苦しいことでもあった。
 それに何より、イコール人を殺すということなのだ。秋久は血を見るだけで顔も青ざめてしまう性分であり、とても「向いて」いるとは思えない。周りの話を聞くによれば、十五で徴兵が下ったのは、この辺じゃ聞いたことがないという。

 なぜ俺が。

 その思いは消えなかった。行きたくなかった。通知には、拒否をしても受理できないとあるが、本気で断り、やむを得ない事情があったケースなどは、進んでは連れて行かないとも聞いている。

 それでも秋久は兵として行こうと決心付いた。
 秋久の兄——。智久は、警視庁に所属していた。元々あまり連絡が取れていなかった為に、あの事件があってから何もかもが途絶えていた。
 県警の方に連絡を取ったが、その事に関しては何も言えないと口を固く閉ざした。「警察派」に属したのも、ただ兄が警察だったのが理由だった。

 兄はどこに居るのか。秋久はそれを確かめたかった。

 三人の役人が、大きな車に乗ってやって来た日、母は泣いた。秋久はいつも家を出るときにやる習慣である、父の仏壇の前にある顔写真を拳で軽く突付いて、家を出た。
 訓練を受け、武器を持たされても、絶対人を殺すものか。
 そう誓いを立てて。