ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒の惨状 ( No.3 )
- 日時: 2009/12/13 18:19
- 名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)
第二話
訓練はそう苦しいものではなかった。
自衛隊が行うような血反吐吐くような訓練を当然、素人の一般市民にやらせる訳がないとは思ってはいたが、それなりの覚悟はしていた。ただ毎日長距離を走り、腹筋、背筋、腕立て伏せなどの筋力運動、射撃訓練など、普通のジムや、射撃ゲームなどでできるようなものばかりだった。
しかし一番辛かったのは、精神訓練だった。
人を殺すということはどういう事なのか、政府派はいかに愚かか、警視庁の名誉がいかなるものなのか、などと、洗脳するように叩き込まれた事だった。
それでも秋久は人を殺すまいと、自分の意志をしっかりと胸に刻み込んでいた。
訓練中にも浅い関係だが、友人と呼べるような人もできた。しかし、どの人も年上であり、秋久を見るなり、一体どれだけ優れているのだろうと誰もが注目した。それが秋久にとっては、小さな苦痛であり、訳の分からない罪悪感を生み出した。
そして一ヵ月後。
世の中は更に状況を変化させた。政府派が、一般市民への——警察派への攻撃を図ると通告してきたのだ。が、政府派に加担すれば、身の保証はするという脅迫的な情報が流された。
これに従順な人もいれば、まったく無視する人もいる、多種多様な考えが入り混じる中、警察派も攻撃の準備に取り掛かった。
やがて人々は気付いていく。
センソウが始まったのだ、と。
人間は同じ事を繰り返す馬鹿な動物さ。
繰り返して繰り返して、それでも繰り返す。
繰り返してばかりのくせに、同じ毎日に飽き飽きする。本当に阿呆だよな。
智久はよくそう言っていた。でも本気で呆れている口調ではないとわかっていた。智久は人が好きだった。表情があるし、何より叡智であるからだという。
しかし叡智であるからこそ阿呆なのだ。それはどうにもならない事であるから、悲しかった。
「兄ちゃん…どこに居るんだ…。どこかに…居るのか?」