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Re: 黒の惨状 ( No.7 )
日時: 2009/12/13 18:35
名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)

 「あ、宮城くん、こんな仏頂面だけど、怒ってるとか機嫌悪いとかじゃないの」
 「え?」

 思わず間抜けな声を発した。

 「俺は本当に機嫌が悪い」

 老人は低い声でいう。皐月は困ったように二人を交互に見た。

 「おじさんもそんな事言わないで」

 皐月は老人の母親のようにいう。老人は面白くなさそうな顔をし、黙っている。何も言おうとしない老人にまたため息をつき、皐月が口を開いた。

 「このおじさんと私は、血が繋がってるわけでも、知人ってわけでもないの」

 秋久はまた驚いた。そういえば先ほどから、老人の名が出ていない——。


 「政府派が攻撃を始めてすぐ、警察派も攻めてきた。とくにこの地区は、政府派の警備も厳重じゃなくて、警察派のやりたい放題になってしまって」

 秋久は外の現状を思い出す。崩れた建物、倒れる人々、灰色の空気。云十年前の第二次世界大戦を見るようだと誰かが言っていた。

 「…やっぱり思ったより酷いんだな。こんな事になってから行動範囲が狭まって、外のこととかが分かりにくくなってる」

 皐月は頷く。

 「一夜にしてこの地区は壊滅状態…世界大戦から戦争の技術っていうのは進んでるものなんだね…」

 皐月は自分の腕についている傷を撫でた。悲しそうに、俯く。秋久は彼女に目を向けているのは辛くなり、反射的に老人の方を見た。丁度、老人も秋久の事をじっと凝視していた。秋久は驚き、思わず声を発する。

 「な、なんですか」

 そういうと皐月も顔をあげ、老人の方を向いた。

 「……いや。ちょっと似ていたものでな」
 「似ている?」

 皐月が興味深そうに声を出した。最も秋久自身が一番驚いていた。

 「俺が…?誰に…ですか」

 老人は何も言わない。でも、言う気がないとは感じられなかった。ためらっている、困っているといった気持ちのようだ。秋久は先ほどの老人と皐月との会話を思い出していた。