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Re: 黒の惨状 ( No.9 )
日時: 2009/12/13 18:39
名前: たきばね ◆rvP2OfR3pc (ID: AzSkpKat)

 「なんだって…」

 皐月は質問の意味を理解できなかった。もちろん秋久も眉間にしわを寄せていた。

 「名も名乗らず、この辺りでは見かけないこの俺は、いったいなんだと思う」

 その質問に、答えがあるとは思えなかった。どちらかというと、教えてくれ、そういった感じだった。なおさら二人は、口を閉ざした。

 そんなことは、どうでもいいじゃないか。生きていれば。

 秋久は心の中で、声を聞いた。能天気に笑う、兄の姿と共に。
 兄ちゃんなら、こう言うかな。

 「——そうだよね」

 隣で皐月が優しい声でいう。秋久は知らぬ間に、声に出していたらしい。

 「……そう思うか」

 老人が低い声でいう。秋久は声に出すつもりのなかった言葉が口に出てしまったせいか、若干返答が遅れた。

 「まあ……」

 俺じゃなくて、兄が。そう言いそうになったが、喉もとでその言葉は止まった。

 「…宮城、だな?」

 老人は目を細める。一言一言は短いが、さきほどよりは老人は声を発していた。心を開きつつあるということか?と秋久と皐月は感じていた。

 「はい」

 秋久は次の老人の言葉を待った。何か、次に繋がるような気がしたからだ。

 「お前に似た男を…少し知っている」

 秋久は、拳を強く握った。興奮していたのだ。
 似ている男——。秋久に思い当たる節は、一つしかいない。
 この世で血が繋がっている、唯一の男とは——。