ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.24 )
日時: 2009/12/29 13:40
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常15 死神少女、犬に追われる。

 ***

 ……どうしてだ。人間ってどうしたら、こんな事態に巻き込まれるんだ。
 俺とエヴァは現在、校舎内をぐるぐると走っている状態にある。というよりは、逃走中だ。シェリルさんいえば違くはないんだが、シェリルさんというわけでもない。
 授業中なのに廊下を走り回る俺達に、とうとうある教室から授業をしていた先生が怒声を俺達に投げかける。

「おいお前ら! 今は授業中だ! 今すぐ教室に戻らないか!」

 中年の男教師の言う事など、今の俺達にはどうでもいい。
 教師の言う事を無視して走り去る俺達に、教師はカンカンになりながらこちらを見ていただろうが。数秒後には、その小太りした身体を教室の中へと引っ込めているに違いない。
 何故なら、殺気を放っている如何にも凶暴そうな黒い数匹の犬が、俺達を一心に追いかけて来ているのだ。

「あの犬何なんだよ! シェリルさんのか!?」
「そう、あれはシェリルの召喚獣の中でも凶暴な“ヘルハウンド” 私達を捕まえる為に放ったものなのだろうけど、完全に使い方を間違ってるわね……。あの魔獣に腕だの足だの噛まれでもしてみなさいよ。確実に引き千切られるわね」

 ちょっ、シェリルさん完全に使い方間違ってるだろ! 俺達捕まえるのに最悪殺すような魔獣なんて放つか普通!
 俺がパニックに陥ってると、人の肉を引き千切るような恐ろしい魔獣に追いかけられているというのに、エヴァは余裕の表情で言った。

「大丈夫、まさかこのまま逃げ続けるなんてしないわよ。シェリルに屈するのだけは嫌しね」

 下へ降りる階段のすぐ近くの理科室に飛び込むと、エヴァは手の中で一つの小さな魔法陣を生み出す。それを魔獣共に向けると、魔法陣が光りそこから何か黒い馬が飛び出してきた。
 こいつはユニコーンか……? と思いきや額から生えている螺旋状の筋が入った長く鋭く尖った角は、一本ではなく二本だったのだ。

「この子は私の召喚獣の一匹“バイコーン” ユニコーンが純潔を司るのに対し、バイコーンは不純を司る魔獣なのよ」

 バイコーンとやらは迫ってくるヘルハウンド共に突進し、次々と自慢の角でその肉を引き裂いてゆく。強さは申し分ないんだが、あまりにも倒す光景がグロテスクなのがな……。
 それはともかくこれでやっと魔獣共を倒したかと思いきや、引き裂けば引き裂くほど、魔獣は肉片から新たに再生して増殖してしまう始末。どうやら倒すのは逆効果だったらしい。

「ちっ……シェリルの奴、増殖するなんて随分と気味の悪い魔獣を送り込んできたわね……。仕方ない、とりあえず此処はもう何匹か召喚して時間を稼いでおくか……。“バイコーン”!」

 エヴァはもう一度魔法陣を作り、バイコーンを数匹召喚する。
 バイコーン達がヘルハウンドの相手をしているうちに、俺はエヴァの手を掴み階段を駆け下りる。下の階に着くあたりには、さすがに騒ぎが大きくなりすぎたようで先生達が授業を中断し、理科室の異変を食い止めようと色々頑張っていることが音で分かった。
 バイコーン達が時間稼ぎをしている中、俺達は次なる逃げ場を探し、そこでヘルハウンドに対しての対処法を練る事にした。俺が走ろうとしたその時だった。

「いったあ……何やねん一体!」

 それはこっちが聞きたい……。いきなり走ってきた女子にぶつかり、俺はそのまま尻餅をついた。相手もそのようだ。ぶつかったのは、上履きの色からして一年生のようだ。
 俺も相手もいたたた……と尻を擦りながら起き上がると、顔を見合わせる。明るい感じの茶髪のセミロングに短いスカートと、活発そうな少女だ。

「すまんなあ。大丈夫やったか? あんた、二組の泉井司やろ? どうしたんや、こないなトコロで」
「え、えっと……」
「もしかしてあんた、うちの名前知らへん?」

 もろ関西弁で一方的に質問をしてくる目の前の女子。どう言っていいのか分からず、唖然と女子を見る俺。そこに、エヴァが俺と女子の間に割り込んできた。ハブにされたことが相当イラついたらしく、かなり殺気立っている。
 そんな殺気立っているエヴァに、目の前の女子は物珍しそうな表情でエヴァを見つめる。

「知ってるで。あんた、最近転入してきた黒神慧羽やろ? 噂通りかわええやないの。でも、こないな殺気を放っているとは聞いてなかったけどな」

 殺気を放つエヴァをもろともせずに、明るい声で話しかける女子。お喋りな女というよりかは、変わっている女だな……。
 ひとまず俺は、目の前の女子に名前を聞いてみる事とする。

「えっと、とりあえず誰だお前?」

 女子は、はっしてこっちを見る。

「ああ、すまんかったな。うちは一年三組の柏葉茉莉、宜しくな。二組の泉井司君」

 弾んだ声で自己紹介をする転校生。柏葉茉莉……知らねえな。ていうか只でさえ人の名前を覚えるのが苦手な俺が、他クラスの生徒の名前なんて覚えている筈がないんだが。そもそも覚える気すらないし。その点ではこの女を尊敬する。わざわざクラスから名前まで覚えているなんてな。
 さて、今思い出したが感心している暇なんてない。どうやらバイコーンを潜り抜け、三匹程のヘルハウンドがこっちへとやって来た。

「ちっ、来たわね……!」
「な、何なんやあれ!?」
「とりあえず逃げるぞ!」

 ……魔獣vs俺&エヴァの逃走劇は、大阪弁女を加え更に白熱しそうだ。