ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.8 )
日時: 2009/12/15 21:02
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常07 死神少女、転入する。

 ***

 紫苑も帰ってきて七時半。リビングの机を六人の人間が囲みながら食事を摂る。人間といっても俺と紫苑以外は死神と悪魔しかいない為、六人と言っていいのか。こんな面子で晩飯を食っているのは、おそらく日本中探しても俺の家くらいだ。
 使い慣れない箸で米を口に入れながら、エヴァが俺に聞いた。

「ねー司。学校って何?」
「……別にお前が知る必要はないだろ」

 そうご飯を口に含めながら言う。するとエヴァはぷくーっと河豚のように頬を膨らましながら、ご飯を口の中にかき入れる。そして箸を勢いよく机に叩き付け、ごちそうさまも言わずズシズシとリビングを出て行った。……俺何か悪いこと言ったか? 別に俺は知る必要はないって言っただけで、特に何も……。
 そんな俺を見て、ユリアが冷たい視線を送りながら言った。

「あーあ、エヴァ拗ねちゃった。司ってデリカシーってもんが無いんじゃない?」

 んだとこの桃髪ツンツン娘。お前の生意気なその態度よりはマシだ。……と俺は言いそうになったが、ユリアの言っていることも間違っているわけではないので黙っておいた。
 そんな中、シャロンやウィニなど次々と飯を食い終わり、部屋へと戻っていく。何なんだ、シャロンやウィニは何もしていないのに、何か孤独感というか疎外感というものがあるんだが。
 とりあえず飯を食う俺の目に、紫苑がエヴァの方へと行くのが映った。どうしたんだあいつ。

「ねえ、エヴァちゃん。……」
「……い。ど……ば……」

 俺はリビングに居た為、廊下のあいつらの会話はよく聞こえなかった。何か企んでいたりして……まさか。

 ***

 朝休み終了のチャイムが鳴り、いつものように篠塚先生が前方のドアから入ってくる。何だか今日は篠塚先生が一段とはりきっているように見えるのは、気のせいか……?
 篠塚先生は教卓に手をバンと叩き付け、クラス全員に言った。

「突然だが、今日は転入生を紹介する。さあ、入れ」

 綺麗な声なのに男言葉な篠塚先生の口調。慣れている筈なのに、何かの前触れな気がして背筋がぶるりと震えた。
 前方のドアから転入生が入ってくる。どうやら女子のようだ……おいおい嘘だろ。俺はこの時目を疑った。できれば幻覚であってほしいとも思った。腰まである長い黒髪に、ルビーのような赤い目の美少女。紫苑、まさか昨日お前……。

「転校生の黒神慧羽だ。皆、仲良くやれよ」

 黒神慧羽なんて誰が付けた名前かは知らないが、あの顔、あの高校生とは思えない小柄な体格は、間違いなくエヴァだ。紫苑の奴、昨日エヴァに何か仕込んだのか……帰ったら問い詰めてやる。
 「あいつ本当に高校生か?」「でもかわいー」「ほんとだ、なんつー美少女……」教室のあちこちで、転入生の少女に対しての感想が漏れる。その殆どは、少女に対しての称賛の言葉。
 教室がざわめく中、篠塚先生が教室を見渡し、そして窓側の方を指差す。

「ええーと、黒神の席は……。ああ、伊吹の隣が空いているな。お前の席はあそこだ」

 エヴァが騒ぎ立てないかとビクビクしたが、予想外に何も言わずに静かに伊吹の隣、つまり俺の右斜め後ろに座った。
 こいつ、静かにしていれば美少女な部分が目立つし、学校に来れば結構モテるだろう。でもこいつは大人しくするような奴とは思えない、まだ安心はできない。
 とにかく何とかして学校では静かにさせないと、俺がそう右斜め後ろを振り向くと、伊吹が自己紹介をしようとエヴァに話しかけていた。

「私は伊吹澪。宜しくね、黒神さん」
「黒神さんじゃなくて、慧羽でいい。宜しく、澪」

 案外普通に仲良くしているな……。何でこんな所では常識があるんだ、何で俺の前では常識の無い態度をとるんだ。まあ此処で常識ある態度をとってくれるのは助かるが、何か腹立つな……。
 出欠を取り終わり、篠塚先生は授業の為教室を出て行く。そういや一時間目は図書室か……。図書室に行く前に、まずはあいつを問い詰めてやるとする。伊吹と話していたエヴァの肩を掴み、こっちに引きずり込んだ。不思議そうにこっちを見る伊吹に図書室に行くよう、手でしっしと合図をする。

「なによ司。私に何か用?」
「エヴァ……てめえ『何か用?』じゃねーだろ! 何でお前此処に来てるんだ! いつから黒神慧羽とかいう奇妙な名前になったんだ!」
「『エヴァ』じゃなくて『エバ』! “黒神慧羽”っていうのは、慧羽はエヴァから、黒神は死神は黒い神だから黒神って紫苑が名付けたの! 此処に来たのは紫苑が私に学校のことを教えてくれたから、魔術を使って人間に扮したのよ!」 

 エヴァもエバも変わんねーだろ! てかこの名前付けたの紫苑か! あいつどんどんおかしくなっていくな……。しかも「魔術」とかまたファンタジーなもんが出てきたな。勘弁してくれ、これ以上俺を二次元に連れ込むな!
 教室の隅でごだごだ言い合っている俺達を、不思議そうに伊吹が見つめていることに気づく。こいつ、まだ教室にいたのか……!

「泉井君、慧羽ちゃんと知り合い?」
「え……っ。ま、まあな! ちょっとな!」

 適当に笑ってはぐらかす。伊吹は首を傾げていたが、にっこりと笑って俺達に呼びかける。

「泉井君、慧羽ちゃん、よかったら……一緒に図書室行こう?」

 女子と行くというのはいささか照れ臭いが、特に反対する理由もない。俺達は自分達以外誰もいない教室を出て、図書室に向かった。