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Re: Psychotisca-サイコティスカ- ( No.41 )
日時: 2009/12/30 22:37
名前: 冬宮準 (ID: SZdn/z4g)

Piece:4 Diringer の続きの続き(いい加減終わらせろ)↓
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「…………違う。サイコティスカが、ミズルを操ってるだけ。」

ユトラスが大剣を地面に刺すと同時に言った。

「メア」

さすがのティティも、ただ突っ張ってはいられなかった。彼女はメアの方へ近づいていく。が。

ビュッ!!

紅の刃が、ティティのほうへ向けられた。ミズルが血を操るルナ…「ブラッドアート」で剣を作ったのだ。一瞬の動作だった。しかしティティはサイコティスカにより驚きもせず、ただ無表情のまま立ち止まった。血により作られた剣がスゥッ、と静かに音も無く消えていく。それを確認すると、ミズルは少し大きめに口を開けた。それはあと少しでメアの肩の傷に触れる。硬そうな白い歯であんな傷を噛まれれば、物凄い激痛が走るに決まっている。メアは強く目を瞑った。ミズルの歯がメアの傷に触れようとした、まさにその瞬間。

「やめなさい」

大人しくとも説得力のある声が響いた。女性の声だ。驚いたミズルとメアは顔を上げた。路地から人が近づいてくる。黒い帽子を被り、白いワンピースを着、背中も曲がっていないのに黒い老人が持つような杖を持った、可愛らしい人形のような女性。彼女の後ろには、白い仮面をつけた、黒い影がフワフワと浮いていた。

「ノ…ノエル隊長」

クリードも驚いたのか、その女性の名を呼んだ。ミズルは「やめなさい」の一言を無視し、完全にサイコティスカの行くままにしていた。もう一度、ヴァンパイアの様に口をあける。しかし、ビュッ、と風を切って、ノエルの黒い杖がメアの傷とミズルの間に振り下ろされる。その杖の先は少しずつミズルの方を向き、もう少しで鼻に当たるというところまで来ていた。ミズルは慌てて立ち上がる。それに杖の先も突いていく。

「やめなさいと行ったはずです」

ノエルの声は確かにそういった。しかし、ノエルの口は動いていない。その「声」は、彼女の後ろにいた、黒い影から聞こえてきた。相変わらずその長い身体をフワフワ浮かばせている。

「我らディリジェはサイコティスカに出来るだけ操られないように、強い意志を持たなくてはなりません。私もこの『悪魔愛好症』から逃れようと万能薬、『ノストラム』を貴方達と探しています。私はこの地域の者を従わせるようにと命じたんです。殺せとは行ってないはず…。ディリジェの規則を守ってください。さもなくば…」

口を動かしていないノエルは杖の持ち手の部分にある、十字架のマークのボタンを押した。すると、杖の先から小さくとも大きな輝きを放つ刃を出した。

「この私が貴方を排除します」

あと1ミリでも前に進めば、ミズルの全く美しく白い顔は、刃によって傷つけられてしまう。

「す…すみません…」

ミズルは仕方なく素直に謝った。これがノエルのルナでもなんでもない、「特技」だった。言葉や金だけで人を操り支配する。ノエルは深く肯くと、刃をしまって、なんとか立ち上がったメアの方を向いた。黒い影のそれと同じような動きをする。

「メアさんとティティさん。今回は真に失礼致しました。貴方達『ティスタ』の情報はよく知っています」

ノエルは軽く礼をすると、部下3人に「来い」、という合図を手でし、路地のほうへ振り返った。ディリジェの4人は闇の中へ消えていく。それと同時に、ノエルは呟いた。ノエルというより、ノエルの「意志」なのだが。

「その内貴方達と私達は、争うことになるでしょう」

そんな言葉を残してディリジェの者達は暗闇に消えた。メアは安堵のため息を漏らし、ズキズキと痛む傷にもかかわらず、ティティに優しく微笑んだ。