ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.10 )
日時: 2009/12/29 14:57
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常09 死神少女、不思議な現象に出くわす。

 ***

 軽音楽部の練習が終わってから一時間程が経過した。軽音楽部所属の伊吹澪は下校時間が一時間前後遅れながらも、いつものように帰っていた——ただし、鞄の中に日本刀を隠しながらだが。隠したといっても、日本刀の中でも長大な大太刀という種類の為、鞄から鞘から上の部分から柄の先までがはみ出ている。彼女は自分が目立っていないか、と周りの目を気にしながらも街中を歩いている。
 彼女が今日の帰りが遅い理由はその日本刀にあった。帰ろうとしたら鞄の上に何故か日本刀が置いてあり、処置に迷っていたら一時間が経過。『先生に持っていっても怪しまれるかもしれない、とりあえず家に持って帰ってみよう』と澪は思考錯誤の末結論付けた。教師に届けに行くより、自分の家に一旦持ち帰る方が余程怪しまれるだろうが、混乱していた澪はそんなこと欠片も思わなかった。
 家に日本刀を持ち帰ったところで親に問い詰められるかもしれないが、澪にその心配はなかった。何故なら澪の親は小さい頃他界、親戚の夫婦に育てられ、今は自分の貯金や親戚夫婦の仕送り、アルバイトなどもしてアパートで一人暮らしをしている。
 日本刀を持ち帰ることに澪は何の問題も無いわけだが、そのようなことよりいきなり日本刀が現れた方が驚きだ。澪は鞄からはみ出ている日本刀をまじまじと見つめる。

「でもどうしよう、この日本刀……。警察に届けた方がいいかなあ……」

 澪がそう思い悩んでいた時だった。突如夕暮れの橙色の空が深夜のように急に暗くなり、街中を歩いていた人間が一人残らずいなくなってしまったのだ。この異常事態に、澪は慌てて周りを見渡す。

「な、何!? 皆どこに行っちゃったの!?」

 あたふたとなっている澪の後ろに、静かに影が忍び寄っていた——。

 ***

 俺が自分の部屋でラノベを読んでいた頃、突然夕暮れの空がまるで深夜のように真っ暗になった。何だ何だ? 何の異常事態ですかこれは。まさかまたあいつの仕業か、あの電波娘の仕業かコノヤロー。
 ドタドタと忙しく階段を駆け下りて、リビングのドアを開いた。するとエヴァ、ウィニにシャロンとユリアと新たな電波を加えた電波四人娘がテーブルを囲んで何やら深刻そうな顔で話していた。地球を魔術うんたらかんたらで黒い世界(=煉獄)にでもしようって計画か? そうなのか? あいつらのことだからきっとそうだ。

「おいてめーら! 急に空が暗くなったけど、これもてめーらの仕業か!?」
『何言ってんの、あんた馬鹿? こっちだってこの現象に今気づいたばっかよ! だから即急に対策を練ってるんじゃない! 役立たずは蟻の巣にでも引っ込んでなさいよ!』

 そう俺を睨みながら吠えるユリア。蟻の巣って何だ蟻の巣って! 俺は蟻扱いかツンツン娘! この糞悪魔め、言いたい放題言いやがって……!
 今にも噛み付きそうなユリアをウィニが取り押さえる。まあいきなり犯人扱いをした俺も俺だな、このツンツン娘に対してはいつか別の機会に制裁を加えてやるとしよう。
 事情を聞きに来た俺に対して、エヴァが答えた。

「この現象を引き起こしたのはは私達じゃないわよ。これだけの大魔術ということは、故意でやっていることは確かね。それにさっき司と学校から帰ってきたところも含めて、いくつかの場所からアストラルの気配がする……。というわけで何が起きたのか、私と司で調べに行くよ。シャロン、ユリア、ウィニは残って紫苑とこの家を護ることと、何か気づいたことがあれば報せて」
 
 ラジャ、と三人は声を揃えて言う。は? 何で俺まで一緒に行かなきゃいけないんだよ、お前だけ行けばいいだろ。と思ったが、大鎌て叩き切られたらやはり敵わないので、一緒について行くことにする。
 俺とエヴァは紫苑、ウィニ、シャロン、ユリアを家に残し、辺りを捜索することにした。それにしても暗いな……この街だけ世界から切り取られて闇に包まれたみたいだ。エヴァはそんな暗い街の中、迷わず一つの方向へと歩き始めた。こっちの方向は……エヴァと俺が帰ってくる道か。
 エヴァの進む方向に、俺も着いて行こうとした時だった。突然エヴァの目の前に、一人の少女が現れる。長い黒髪をツインテールにし、黒いメイド服——までは只のコスプレ少女なのだが、手には柄の部分が黄金の剣と明らかにおかしい組み合わせだ。エヴァが大鎌を取り出し構えると、少女は無表情で喋り始めた。

「こんばんは——いや、暗くてもまだ夕方なので“こんにちは”が正しい挨拶でしょうか。貴方がエヴァンジェリン=アリットセン、ですね?」
「そうだけど、それが何よ」

 あの女の子、やっぱり只のコスプレ少女じゃない。エヴァ、つまり死神の存在を知っているということは、こいつも煉獄や悪魔うんたらかんたらってのと関わりのある人間。もしかしたら、この子が今回の事件を引き起こしたのか?
 考え込んでいると、エヴァが俺に指示した。

「司、お前は先に行って。今日帰ってきた道を辿っていけば、原因がいるはずよ。私も後から必ず行くから」
「で、でも!」
「早く行って!」

 エヴァの口調が強くなる。俺は言われるがままに、いつもの帰宅する時に使う道を走っていった。

 ***

「いいの? 司を先に行かせて」
「構いません、あの人間だけでは所詮何もできないでしょうから。それに私の役目は、貴方を足止めすること。私は私の使命を遂行するまでです」

 少女はそう言って剣を構える。エヴァもそれに対抗するように大鎌を構えた。そんな中で、エヴァは少女に問う。

「お前、名前は?」
「名前? ……アテナ、と申します」
「嘘、偽名ね。本当の名前は何よ」
「嘘ではありません。正確に言えば……“4”(フィア)のアテナ、でしょうか」

 エヴァが「“4”のアテナ」という奇妙な名について聞き返す時には、少女アテナの剣がエヴァを断ち切らんと襲い掛かってきていたのだった。