ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.15 )
日時: 2009/12/29 14:58
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常14 死神少女、逃げる。

「はあっ!?」

 シェリルさんの言葉に一番驚きを示したのは、勿論のこと当人であるエヴァ。目を丸くしいかにも“信じられない”という顔でいる。
 俺としてはこれ以上面倒な事に巻き込まれないよう、このまま帰って欲しいんだが家出娘のエヴァがそうする筈ない。エヴァは学校の教科書が詰まった鞄を引っ手繰ると、いってきますも言わずに逃げるように、というか逃げた。俺も慌てて自分の鞄を取り、シェリルさんに軽く礼をすると、急いでエヴァの跡を追いかけた。

「それで逃げたつもりでしょうか……愚かなる我が妹よ、ふふ」

 出て行く間際、シェリルさんが怪しく笑っていたのを俺は聞いた。
 また面倒臭い事になりそうだなと、俺はそう直感した。

 ***

 出欠を取り終わり、篠塚先生は教室を出て行く。
 とりあえず何も起きていないし、さっきのは杞憂で終わってくれるようだ。ほっと一安心だが、俺の右斜め後ろの女子——エヴァは違う。なんとか殺気を押さえ込んでいるが、未だにピリピリしている。そのせいか、隣の伊吹は怯えているし。
 まあそれはそれはそれとして、一時間目の準備っと……。
 俺が机から教科書を出そうとした時だった、突如俺のすぐ横の窓が勢いよく割れる。思わず伏せると、エヴァが俺を突き飛ばした。おかげで尖った硝子の破片は俺に刺さらず、怪我をせずに済んだ。
 どうやらさっきのは杞憂では済まなかったようだ。どこから入ってきたのか、黒いビックサングラスに、黒光りしているタイトなミニスカート、黒い毛皮のコートにブーツ、そして更には金髪と、いかにもセレブという感じの格好のシェリルさん。
 
「見つけましたよ、我が愚妹」

 シェリルさんはにこりと黒い笑みを作る。宿敵の登場に、エヴァはついに殺気をあらわにした。
 いきなり金髪美女が窓から乗込んで来るという、どっかの映画のような現象にクラスメイト達がざわめく。ある者は金髪美女を近くで見ようとし、ある者は散らかった硝子の破片を片付けようとする。
 でも今はそんな事に目をやっている暇は無い。此処はどうにかして、シェリルさんを……!

「って、おいエヴァ!?」

 俺が何とかシェリルさんをいさめようとする前に、エヴァが教室から走り去っていった。俺も慌てて跡を追おうとするが、丁度一時間目開始のチャイムが鳴る。更には担当教科の先生までが入ってきてしまった。

「おい、お前ら何をやってる? チャイム鳴ったぞ」
「すいません先生! 風邪っぽいんで保健室行って来ます!」

 くそっ、こうなったらやけくそだ! バレバレの嘘を付き、俺はエヴァの跡を追った。

 ***

 他の家より一回り大きい泉井家のリビングに、二人の少女がテーブルを挟み向かい合わせで座っていた。かぼちゃパンツの黒髪の少女は、エヴァの使い魔ウィニフレッド。だぼだぼの黒服にダークブラウンの髪をポニーテールにした少女は、シェリルの使い魔キャロル。この二人は昔から仲の良い使い魔同士なのだが、今二人はある危機に直面していた。

「どうしましょうです……」
「どうするか。シェリル様、しぶといからな」

 二人が頭を悩ませている事とは、キャロルの主人シェリルの事だ。シェリルは現在家出した妹、エヴァンジェリンを煉獄に連れ戻そうと司達を追っていたところだった。シェリルは暴走すると周りが見えなくなる、だから二人はシェリルが何か仕出かさないかと心配だったのだ。
 二人は暫く考えて、やがてキャロルがぽんと手を叩いた。

「私達が学校に行き、司達を助けるというのはどうだ」
「……」

 キャロルの提案に、ウィニフレッドは少しの間考え込んだ。そして言った。

「いいんじゃないです? そうと決まれば早速行くです」

 二人はそう結論付けて、急いで家を出ていった。
 こうして、今回の騒動はますます激しくなっていく事だろう。