ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.2 )
日時: 2009/12/29 14:53
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常01 死神少女、現る。

「んじゃ行ってきます」

 俺はそう言って玄関にある自分の靴を穿く。と言っても、妹の紫苑は俺より先に学校に行っている為、放任主義のこの家には今誰もいないのだが。
 ガチャ、と音を立ててドアを開く。すると足元から、何か呻き声が聞こえた。

「お腹減っ」

 バタン、と開いたドアを閉める。今……何かいたような。長い黒髪の少女がいたような。
 いや気のせいだ。ドアを開けたら美少女がいましたみたいな、漫画やラノベみたいな展開があるわけがない。
 俺はもう一度改めてドアを開く。

「酷いわね……空腹で倒れた女の子を無視してドアを閉めるなんて……。お前の魂、狩ってやる!」

 もう一度バタンと音を立ててドアを閉めた。
 気のせい……気のせいの筈だ。ドアを開けたら美少女が、憎しみに満ちた赤い目で俺を睨んでるなんて。きっと幻覚だ。「魂狩ってやる」とかいう声も聞こえたが、幻聴に違いない。最近ストレス溜まってるんだな俺……。
 そう言い聞かせて、俺は本日三回目ドアを開く。

「覚悟しなさい!」
「ってうわああああああ!?」

 三回目ドアを開けた時には、銀色に光る巨大な鎌を持った黒髪の少女が、今にも俺を叩き切りそうな勢いで襲い掛かってきた。
 一瞬どうなるかと思ったが、少女が鎌を振り下ろそうとした瞬間、空腹のせいなのかその場で倒れた。
 ……どうする俺。幻覚ではなかった、今のは確かに幻覚ではなかった。あれが現実でも、俺は学校に行かなければならない。しかし此処で俺が少女を放置すれば、少女は復讐と言わんばかりに俺に鎌を振り下ろすだろう。そして更に俺は空腹で倒れた少女を放置した最低な男として、近所に知れ渡るだろう。

「……くそっ!」

 俺は少女を抱え家の中に戻り、台所にまで連れて行った。
 
「おい起きろ! お前腹が減ってるんだろう!? 俺んちの朝飯の残り食ってけ! 食ったら帰れよ!」

 荒々しい声でそう告げると、俺は一目散に家を出て学校へと走っていった。
 ああ、あの誰かも知らない女のせいで、俺は今日遅刻するのか……。

 ***

「じゃーな司、来週は精々遅刻しないよう頑張れよ」

 光輝は半分からかうようにそう言うと、別の方向へと歩いていった。ったく、今日はあの女のせいで遅刻した上に、ペナルティとして居残り掃除だもんなあ……。ついてねえな、俺。
 家の前に着くと、そこにはもうあの物騒な大鎌はなかった。あいつ、帰ったのか……。一時はどうなるかと思ったが、一件落着だな。
 安心しながらドアを開けると、そこには悪夢が待ち構えていた。

「随分と帰るのが遅かったね」

 ……おいおい嘘だろ。何の冗談ですか、何のドッキリですかこれは。
 目の前には先程の長い黒髪の美少女が、仁王立ちで立ち塞がっている。

「泉井司……だっけ。朝食、中々美味しかったよ」

 笑いもせずに礼を言う少女。
 こいつ、何で俺の名前知ってるんだ、しかも何で平然と俺の家にいるんだ。朝食食ったら帰れって声、聞こえてなかったのか?
 俺が考えて込んでいるところに、少女が話しかけてきた。

「まあ此処で立ち話をしているのもあれだし、座って話しましょう」
「は? てかお前帰れって言った筈じゃ……っておい!」

 俺の声など無視して、少女はとっととリビングの方向へと歩いていく。
 ほんと何なんだあいつは……。此処はお前の家じゃないっての。イラつきながらも俺は少女の跡をついて行く。
 リビングには少女が所有していると思われる巨大な鎌、それと黒猫が少女の方へと寄り添ってきた。
 俺と少女は、テーブルに向かい合わせになって座る。こいつは何も言おうとしないが、俺にはこいつに聞きたいことが沢山ある。

「おい……何でお前此処にいるんだ!? 何で俺の名前を知っているんだよ? その鎌は何だ? そもそもお前は誰なんだよ!?:
「うるさい黙って。そんな一辺に聞かれてもワケが分からない。まあとりあえず私が誰かくらい教えてあげる」

 少女は腕に抱いた黒猫を撫でながら名乗った。

「私はエヴァンジェリン、エヴァンジェリン=アリットセン——死神よ」