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Re: 白き羽の騎手 ( No.8 )
日時: 2009/12/30 18:48
名前: アヤカ (ID: VTrHJ6VV)

 「いえ……どういたしまして」

 ユイはそれを聞くと、優しく笑って女の子の頭をクシャッと撫でた。

 「お名前は?」

 「ら、ランラです」

 「よろしくね、ランラちゃん」

 「はい、あ、あの……失礼しました」

 ランラはそう言うと、慌てて部屋を出て行った。その後をぼんやりと見つめていると、不意に声がした。
 
 「今のは失言だったね、騎手さん。この世界じゃなくて、この国だよ。ボク達の事がバレると、色々動きずらくなるんだから」

 「起きてたの、レン」

 ユイがベッドに視線を移すと、丁度レンが体を起こした所だった。
 レンはユイと目が合うと、にっこりと笑った。

 「だって、ご飯のにおいがしたから」

 「はいはい、どうぞ」

 ご飯が入ったお皿とはしを渡すと、レンはうれしそうにそれを受け取る。
 そして、あいさつもなしに頬張った。
 よほどおなかが空いていたのだろう。
 彼の笑顔を見れば、すぐにそれがおいしいと分かった。
 
 「ベッドを汚さないように気を付けてよ」

 そう注意してから、ユイも肉を口に入れた。
 甘辛いタレの味と共に、肉汁も口いっぱいに広がる。
 確かに、とてもおいしい。
 ご飯を頬張ると、これもタレがいい感じに染み込んでいて、おいしかった。
 二人とも、ご飯を平らげると、ここの特産だという果物を手に取った。

 「騎手さん、これ何て言う果物なの?」

 「それは聞かなかったな、明日聞いて置くよ。でも、皮と一緒に食べ——」

 「うえー、これ酸っぱい……」

 説明している間に、レンはそれの皮を剥き、パクっと一口かじったのだ。
 ユイは恐る恐る、一口食べたがそうでもなかった。
 甘い皮が酸味を押えているのだ。

 「だから皮ごと食べるのか……」

 「それより騎手さん、なにか分かった?」

 レンはそう言ってユイを見た。
 若干なみだ目なのは、さっきの酸味のせいだろう。
 
 「だめ、情報が足りないから、全然分からない」

 「そうなんだ」

 短く返事をすると、レンは果物を平らげ、果汁のついた指をぺロッとなめた。
 そして、ベッドを降りて、窓の前に立つと、窓を開けた。

 「じゃあ、ボクは出かけるよ。明日の朝には戻るからね」

 「いってらっしゃい」

 ユイがそう言うと、レンはにこっと笑って「行ってきます」と言った。
 そして、次の瞬間レンの姿は消え、残ったのは一枚の純白の羽だけだった。