ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.12 )
- 日時: 2009/12/30 16:42
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常11 天然少女、妖刀と出会う。
澪は今起きている状況が、何なのかまったく理解できていなかった。分かることといえば、今自分が“村正”という刀を持っているせいで、目の前の少女が危ない目に合っていることだ。この刀を少年に渡せば栗色髪の少女は助かる……だがさっきまでうっすらとしか感じていなかったが、今の光景を見てはっきりと分かった。あの少年に自分の持っている刀を渡してはいけないと。
シャロンの盾はもうすぐで崩れてしまいそうだった。いつ弾丸を込めているのか、少年が銃弾を切らすことはない。このままでは、あの少女に弾丸が当たってて……。澪の脳裏に最悪な結末が浮かぶ。
そんな中、澪は考え付いた。今少年はあの少女に集中攻撃をして、こっちにまったく目をやっていない。少年に気づかれぬよう背後から忍び寄って、この刀で軽く傷を付ければ……。それは不意打ちという、卑怯なことであることを澪は知っている。
だが今はそのような事を言っている場合ではない。このままだと、自分達がやられてしまうのだから。澪は恐る恐る、鞘から刀を抜いた。
するとどういうことか、刀は急にガタガタと揺れ始めた。まるで早く人を斬りたいと、疼いている様に。澪は気配もなく自然と歩き始め、その手に握られている村正は少年を断ち切らんと振り上げられていた。
「ちっ」
少年は気配も無い澪——いや、村正に気づいたのか、舌打ちをして刃が当たる寸前で避ける。澪は刀が少年に当たっていないことを見ると、我に帰り自分が何をしようとしたのかに気づく。そう、自分は少女を殺そうとしている少年とはいえ“人”を斬ろうとしていたことに。慌てて刀を鞘に戻す。
「ごっ、ごめんね! 大丈夫だった?」
さっき少年を斬ろうとしていたのとは一変、突然謝り始める澪に少年と少女は呆然と澪を見つめるばかりだった。
***
夕方でまだそれなりに明るかった為、電灯が点いていなかった。それもあり、街中には明かりが一つとして無く闇に鎖されている。
それにしても、一体異変の原因はどこにあんだよ……? そういやこの道を突っ切れって言われただけで、原因がどこにあんのかなんてまったく聞いてねえじゃねえか……くそっ。何故だか知らないが、街中に人間が誰一人としていない。とりあえずこのまま走り続ければ何か分かるか……。
只走り続けるだけの俺の目にある光景が入ってきた。呆然としている少年少女二人は、二丁の拳銃を持つ俺と同じくらいの歳の少年に家で待機している筈のシャロン。んであそこにいる制服姿の女は……伊吹!? 何で伊吹が日本刀なんて持ってあんなところにいるんだ!?
「伊吹! 何でお前が此処にいるんだよ!?」
「えっ? 泉井君!? 泉井君こそどうして此処に……ってあわわわわ!」
伊吹澪、今回も見事にドジっ娘体質発動。何故だかタイルが敷き詰めてある平らな地面の上で、滑って転んで尻餅をつきました。
「あいたたた……」と尻を擦りながら立ち上がる伊吹。この平らな場所で転べば、確かに痛いなそりゃ……。
俺が呆れながら伊吹を見ていると、黒服の少年が俺に尋ねた。
「司君に何かする気? 何かする気なら君をぶった切るよ」
「お前、この女子高生の知り合いか?」
シャロンのことなどスルーし、俺の元へと寄って来る。
何だこいつ、いきなり知らない奴にそんな事聞くか? ツンツンした感じの態度が何か気に食わないから答えたくないんだが、両手には二丁の装飾銃が握られている。脅されたら敵わないので、大人しく答えておく。
「そうだが、それがどうかしたのかよ?」
「どうもこうもねえんだよ、こっちは。とりあえず俺はその女子高生の握っている刀を“返して貰わなきゃ”いけない」
「返して貰わなきゃ……? それ、お前のなのか?」
俺は少年の「返して貰わなければいけない」という言葉が引っかかった。少年が伊吹を脅しているようにしか見えないんだが、違うのか?
状況が理解できない俺に、少年が溜め息を付きながら俺の疑問に答える。
「そうだ。その妖刀、もとい神器“村正”は俺達堕天の一団が所有していた物だが、つい最近誰かが村正を盗み出したんだよ」
誰かが盗み出した……? それってまさか、自分のこと『ボク』とか言うフローレンスっていう奴か!? あの野郎……エヴァの関係者だからまともな奴だとは思っていなかったが、面倒なことに巻き込みやがって……!
俺が一人でふつふつと怒りを沸かせていると、俺の背後から誰かの気配がした。
振り向いてみると、見覚えのある顔の少女がこちらへと歩み寄っていた。長い黒髪のツインテールにメイド服、右手に握られている剣、さっきの丁寧語のコスプレ少女だ。一体何しに来たんだよ……おおかた、伊吹の持っている刀を寄越せとでも言いに来たのだろうが。
この状況、結構ヤバくないか? そう危機感を感じていた俺だが、少女の口から発せられたのは意外な言葉だった。
「帰りますよ、オズ。村正に関してはまた次の機会とします。予想外の戦力があったものですから」
「はあっ? どういうことだよアテナ」
「どうもこうもありません、言うとおりにして下さい。叛く場合は切り刻みます」
「……はいはい、分かりましたよ」
オズという少年は、アテナという少女に引きずられる様に帰って行き、やがて見えなくなった。