ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.13 )
日時: 2009/12/30 16:43
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常12 死神少女、竜を連れる。

 一体何だったんだ? あいつら。
 オズたちが消えていった方向を眺めていると、暗かった空が元の夕暮れ空に戻っていった。サラリーマンのおじさんや下校中の女子高生のグループなど、突如消えてしまった通行人達も何事も無かったかのように街中を歩いている。オズとアテナがいなくなって起きた現象が元に戻ったっていうことは、あいつらがこの現象を引き起こしたのか?
 顎に手をあて考えていると、見覚えのある少女が空から舞い降りようとしていた。あの黒髪に赤い目はエヴァだ、俺は手を振る。……あれ、何かおかしい。エヴァは何かに乗って空を移動しているようだが、それは魔女の箒だとかファンシーな物ではなく、四つの足のような物体や、翼みたいに空を羽ばたく巨大な二つの何かが取り付けてある物体。その謎の物体はエヴァを乗せて、段々とこちらへと降りてくる。この物体って、死神、悪魔、アストラル、魔術、神器、妖刀とファンタジー要素連続で来て、次はドラゴンか!?
 ずっしりと重々しい音を立てて着地したのは、鋭い金色の眼光に鋭利な爪を持つ四本の足、巨大な翼を持ち、真紅色の鱗を纏っている異質な生き物——つまりはドラゴンだ。エヴァはドラゴンの背中から飛び降りて、俺の方に駆け寄ってくる。……待て待て。この変な現象が終わった今、ドラゴンなんて出現させたらマズイだろ。俺の平凡だけど平和な高校ライフを、マスコミvs俺の一大逃走劇に変える気か! それだけは絶対勘弁だ!

「エヴァ! こんな街中でドラゴン出したら目立つからしまえ! 通行人もこっち見てるだろ……あれ?」

 慌てて周りを見渡すものの、アストラルと戦っていた時のように通行人は俺達に気づいていないようだ。また魔術うんたらかんたらとかいうことなんだろうが、とりあえず俺はホッとした。

「私達全員の身体に結界を張っておいたわ。とりあえず見えることはないから安心して。で……何よ、司」
「『何よ』じゃなくて! 何だそのドラゴンは!」

 俺が吠えるように叫ぶと、エヴァは「ああ、これ?」とさすがファンタジー世界の住人。事態の重要さにまったく気づいていないようだ。ドラゴンはエヴァに懐いているらしく、エヴァが近くに寄ると頭を低くする。ドラゴンに表情があるのかよく分からないが、エヴァに撫でられることをどこか嬉しそうにしていた。

「この子は私の使い魔の深紅竜(ウェールズ) 見た目は凶暴だけどおとなしい竜だから、安心しなさいよ」

 おとなしいとかそういう問題か? 此処がどこか分かるか、You are in Japanだぞ? まあ俺が食われなかったとこだけは一安心ってとこだ。一件落着。

「えっ、ええええ慧羽ちゃん?」

 訂正、一件落着じゃない。伊吹にこの状況を完全に見られた……面倒臭いことになったなあ。きょとんとしている伊吹に、この状況、そして今まで何があったのかを説明することにした。

 約十分後。俺は通行人から誰一人として見られていない、実質透明人間状態で伊吹に今回の現象はおそらくあの少年と少女の仕業であること、そして死神のことや俺とエヴァが出逢ったことなどを簡潔に説明した。
 普通の人間なら軽く笑い飛ばし、馬鹿にするだろうがさすがは妖刀の持ち主。「へえ、そうなんだ。改めて宜しくね、エヴァちゃん」とあっさり事は進んだ。伊吹……お前のドジ体質は半端じゃないけど、人間性も半端じゃないな。自分でも良い意味なのか悪い意味なのかは分からないが。あれ、このパターン、どっかでもあったような……。
 事件はこれだけでは終わらない。「丁度良いし、村正が暴走しないか監視も含めて、シャロンは澪と契約したらどう?」というエヴァの提案で、あっさりと伊吹とシャロンは契約し、シャロン&ユリアは伊吹家へと住むことになった。……何故この現実世界で、ファンタジーな物事が簡単に進んでいくんだ。
 俺が呆然としていると、エヴァが俺の腕を引っ張った。

「私達もそろそろ帰らなきゃ。紫苑が心配してるわ」

 ***

 空までは届かずとも、高くそびえるマンションの屋上。シルクハットを被った少女と、黒ずくめの長身の男という奇妙な組み合わせの二人組みが、死神少女達のやり取りを眺めていた。

「……いいのか」
「何がぁ……」

 黒服の男——ゼルギウスは、主である少女、フローレンス=クルックに訊いた。

「妖刀、あの女に渡していいのか? あれはお前が堕天の一団(グリゴリ)から盗み出してきたものだろう?」

 その言葉に、フローレンスはやる気なさげな顔から、口の端を少し上げてにたりと笑みを作った。

「別にいいんだよぉ……あの娘に渡してみるのも、面白くなりそうじゃん……」

 少女は答えると、笑みを崩しまた一つ、欠伸をかますのだった。