ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.14 )
- 日時: 2009/12/30 16:44
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常13 死神少女、再会する。
漫画とかラノベには、ある日突然ファンタジーなモノがやってきたりして、気が付けば主人公はヒーロー的存在になってたり、ハーレムモテモテ現象が起きたりする部類は少なくない。
俺の場合は、ヒーローになったりハーレム現象が起きたりなんて夢みたいな事は起きないが、それなりの事件には巻き込まれたりする。
今日もまた、そんな事件に巻き込まれたりするのかもしれない。
俺はその日、いつもより早く起きた。カーテンの隙間からこぼれている眩しい朝日の光が、ベットで目を瞑ったままの状態の俺の目に差し込んできて、余計眩しく感じる。暖房やストーブ、お風呂などとはどこか違う——例えれば人肌のような温もりを持つ布団の中から出るのは、結構苦戦する。
朝の試練を乗り越え、冷たい水で顔を洗い制服を着てキッチンに下りてきた。紫苑はもう学校に行ったらしい、朝練というやつか。
そんないつものキッチン。の筈が、俺の視界に入ってきたのは、誰かも知らない謎の美女——つまりは、またしても俺を面倒臭い事に巻き込みそうなものだ。
黒髪の赤い目と、誰かに似ている容姿をした美女は、何故か普通に食卓の中に溶け込んでいる。
この人誰だ……そう俺がエヴァに聞こうとした時だった。エヴァの様子がいつもとは何か違う。何というか、ピリピリしているというか……イラついているようだ。
俺が考え込んでいると、黒髪美女が俺ににこりと笑って挨拶をした。
「あら、おはようございます。泉井司様。妹様は、随分と美味しい朝食を作られるのですね」
「えっと……すいません、誰ですか?」
今最も疑問に思っていた事を訊く。にこりと笑う美女から返ってきた答えは、俺を驚愕させた。
「これは失礼致しました。私、アリットセン公爵家長女のシェリル=アリットセンと申します」
アリットセン……? って、エヴァのフルネームってエヴァンジェリン=アリットセンだよな!? てことは、この人はエヴァの姉なのか!?
当のエヴァは殺気立っている。さっきからイライラしていた理由は、もしかしてこのシェリルさんって人が来てるからか? 主の様子が違えば従者の様子も違う。いつもは人間の姿で朝食を摂っているウィニだが、今日は黒猫の姿で皿に注がれているミルクを舐めていた。しかもどこか怯えている様。
暫くの間緊迫感がキッチンに漂っていたが、ついにエヴァが口を開いた。
「シェリル……どうして此処にいるのよ。煉獄にいた筈じゃないの?」
「相変わらず姉を呼び捨てなのですね、エヴァンジェリン。ウィニフレッドも今日はどうしたのでしょうか、使い魔仲間のキャロルが来ているというのに」
キャロル? そう思っていると、俺のかかとに何か当たった。蒼く綺麗な瞳に、赤い首輪に金色の鈴が着けている黒猫。
黒猫が俺の足元にぶつかったのを見ると、シェリルさんは優しげに黒猫に言う。
「キャロル、ぶつかったら『ごめんなさい』でしょう? それと名乗るのも礼儀ですよ」
主の指示に黒猫は頷き、ぼむっと煙を巻く。ウィニの時のように、黒猫が少女へと変わった。ダークブラウンの髪をポニーテールにし、ぶかぶかの黒服で身を包んでいる少女。少女はくるりと俺の方を向くと、一礼した。
「さっきは、悪かった。キャロル=エルウェス、シェリル様に仕えている。泉井司、宜しく」
「あ、ああ。宜しく……」
どこか特徴的な言葉で挨拶をする少女。うーん……未だに動物が人間になることが信じられないんだが。ウィニといいユリアといい。あのゼルギウスとかいう奴は人間だったのにな……。
こんなどこかほんわかした空気も、エヴァの研ぎ澄まされた殺気には一瞬で押し潰されてしまう。
だが殺気を向けられている当人、シェリルさんはまったく動じていない。にこやかな笑顔には、どこか黒さを隠しているようにも見える。何だかこれもこれで怖い。
「落ち着いて下さい、エヴァンジェリン。そもそも、貴方が家出なんてするから悪いのですよ?」
その言葉にエヴァは「うるさい!」と子供のように騒ぎ立てる。
はっ……? 家出? じゃあもしかして、こいつが腹を空かせて倒れていたのは単なる家出?
俺の心を読み取ったのか、シェリルさんは答えるように言った。
「お察しの通り、この娘はアリットセン公爵家当主になりたくないと言って、家出をしたのです」
「う、うるさい! うるさいわよシェリル! 第一当主ならお前がなればいいじゃない!」
どうやらシェリルさんから放たれた言葉はエヴァに相当なダメージを与えたらしく、顔を真っ赤にして更に騒ぎ立てる。ああ、頼むから足音を立てるな……。
シェリルさん、エヴァの幼稚な罵倒も涼しい顔で受け流す。さすがお姉さん。あいつもこんなんだったら……おっと。
そしてシェリルさん、人差し指でびしっとエヴァを指してこう告げた。
「だから私は、貴方を煉獄に連れ戻しにきました!」