ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.17 )
日時: 2009/12/30 16:46
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常16 死神少女、イラつき過ぎる。

 ***

 私立風之宮高等学院の校門の前、二人の小柄な少女が校舎を見上げながら立っていた。一人は黒髪にかぼちゃパンツの少女、もう一人はダークブラウンの髪をポニーテールにし、自分の体格よりも一回りも大きい黒服を身にまとっている少女——ウィニフレッドとキャロルだ。そんな目立つ格好をしていた二人は、通行人の中で一際目立っている存在と化していた。
 暫くして通りすがる人間達が、ジロジロと自分達を見ているのにやっと気づく。

『あ、そういえば姿消すの忘れてましたです。姿消さないと』
『迂闊だった』

 二人はゆっくりと目を瞑ると、その姿は周りの人間からはまったく見えなくなった。まるで透明人間のように。
 辺りを見渡し、周りの人間が自分達を見なくなった事で姿が見えなくなった事を確認した二人は、堂々と校門から昇降口へと入っていく。
 司はどこかと一階の廊下をウロウロしていた時、キャロルが何か起きている事に気づく。何階かは分からないが、上から犬の唸り声がするのだ。それも複数。犬の唸り声以外にも、複数の人間の叫び声なども聞こえる。

『……上から犬の唸り声がする。迷い犬でもいるのか?』
『でも司さんやエヴァ様からは、犬が迷い込んだなんて話聞いていませんですよ? 話していないだけかもしれませんですけど……』

 考えても何故犬が居るのか分からない。とりあえず司達を捜索しようとした時だった。
 唸り声がどんどんこちらへと近づいてくるのだ。それも凄いスピードで。

『な、ななななな何でしょうですか』

 ウィニはビクビクと怯えながら、キャロルの手を引いて唸り声の方へと近づいて行く。——唸り声の正体はすぐ分かった。赤い目の、獰猛な黒い数匹の犬がウィニやキャロルの前に現れた。

『あれは——シェリル様の』

 キャロルがそう言ったのと同時に、犬が二人に襲い掛かってきた。キャロルは反射的に犬に向かって蹴りを繰り出す。

『今のうちに逃げる』

 キャロルはウィニの手を引っ張り、校舎内の階段を駆け上った。

 ***

「な、何とか姿を晦ませる事は出来たみたい、だ、な……」

 死に物狂いで全力疾走したのは、人生で今日が始めてかもしれない。それにしてもあの犬共速えんだよ……自分で言うのもあれだが、俺は50m走一応速いし、体力もある方なんだが犬共と長期戦したら確実に負ける……。魔獣だから体力に限界は無いのだろうか。
 どうにか魔獣共を巻けた俺達は、現在二階の調理室で身を隠している状態にある。成り行きで事態に巻き込まれた、隣のクラスの秋月茉莉とかいう関西弁女も加えて。

「一体何なんやあれは。あんたらはどうしてあの犬共に追われとるん?」

 あの犬はヘルハウンドというクローンのような魔獣で、シェリルさんが俺達を捕まえる為に放ったんです……とは到底言えない。言ったところで、頭のおかしい電波さんと思われて終わりだ。ラノベの読み過ぎで、ついに頭がイっちゃったんですかと引かれて終わりだ。

「あれはヘルハウンドというクローンのような魔獣で、私達を捕まえる為にシェリルという糞糞糞糞糞糞糞糞糞(以下省略)女が放ったのよ。あと私は死神で本名はエヴァンジェリン=アリットセむごうっ!」

 俺は慌ててエヴァの口を両手で塞ぎ、秋月に笑って誤魔化そうとする。
 ファンタジー世界の住人、エヴァ。血迷ったのかあまりにもイラつき過ぎたのか、いきなり今の漫画に出てきそうな、犬に追われちゃってるんですサバイバル現象が何故起きたのかだけでなく自分の正体まで話してしまった。
 ああ、俺はこの電波死神のせいで近い未来、クラスにトンでも電波男と皆に引かれるのが目に見えてきた気がする……。
 だが当の秋月、こういうのってお約束なのか目を輝かせながら俺達を見る。

「へえ! 面白そうやんかそれ! 黒神慧羽ちゃうてエヴァ言うんやな! よろしゅうなエヴァ、うちの事は茉莉でええで」

 何だこの光景は。秋月も電波の一人だったのか、何か俺の周りの人間って電波多くないか? 泉井司電波化計画なのかこれは?
 「宜しくー」と挨拶を交わすエヴァと秋月。すると秋月は、先生が調理実習前に説明をしたり等する教卓に乗っかる。

「なあ司、エヴァ。あんたら、うちに死神って事言ってくれたやん? それが公表済みなのか、秘密事項なのかはうちは知らんけどな。あんたらくらい現実世界から外れたような存在なら、うちの秘密、言ってもええかもしれんな」

 いや……俺は死神じゃないんだがな。死神なのはこのちびっこい電波だけなんだがな。

「もしうちが、超能力者言うたらあんたら信じるか?」