ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.18 )
日時: 2009/12/30 16:46
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常17 死神少女、超能力を体験する。

 にたりと笑いながら俺達に訊く秋月。いきなり「超能力者だって言ったら信じる?」なんて言われても、何と返答すればいいのか分からない。
 問いは冗談で言ったようではないようで、こちらの心の中を探るように俺達を見つめる。こいつ、どうやら神経の深部まで電波に侵された、本物のトンでも電波少女らしい。
 俺が答えれずにいる中、エヴァが呟くように言った。

「……ふうん、面白いじゃない」

 秋月はにたりとした笑みのまま。エヴァの言葉に続きがあるのを察したのか、教卓の上で貧乏ゆすりをしながら、エヴァから言葉が紡がれるのを待つ。

「超能力って、煉獄側(わたしたち)で言う魔術みたいなもんって聞いているけど。まあお前から言われただけじゃ証拠にはならないわね……そうだ、お前の超能力でヘルハウンドを倒してみせて。そうしたら超能力者だってこと、信じてあげる」

 最終的なエヴァの結論に、秋月は「うん、ええよー」とへらへらしながら答える。
 何だが俺だけ蚊帳の外なんだが。電波には電波にしか分からない空間を作ることができるのだろうか。と、俺は無駄に思考回路を働かせる。

「じゃあ、そのヘルハウンドとかゆー奴のとこに行こか!」

 秋月がそう言った次の瞬間、俺は一瞬身体が浮いたような錯覚に襲われた。

 ***

 風之宮学院、二階の突き当たり。ウィニフレッドとキャロルは、黒い数匹の犬——ヘルハウンドに追い詰められている状態にあった。

『どうするですか……これ』
『どうするもこうしたもない。シェリル様の使いを壊すことには気が引けるが』

 キャロルはパンと、手を合わせるように両手の掌同士を叩く。その手と手の間からは、一本の光の筋がそこに浮かんでいた。そしてその光の筋は透明な物質へと変化を遂げて行き、やがて一本の“柱”となる。
 餌を欲するように唸る犬達の前に、静かにそれを向ける。

『獣に負けるような、防壁使いではないぞ』

 獣達がキャロルに飛び掛ろうとした時だった。突如、ヘルハウンド達の上——つまり天井にキャロルの手中にある透明な柱のような“刺”が、魔獣達を狩る為の罠のうように、無数に在ったのだ。キャロルが出したと思われる“刺”は一斉にヘルハウンド達へと雨のように降り注いだ。
 防壁使いと言うからには、その刺は防壁を刺状に変形させた物なのだろう。刺は硬質で、魔獣達の肉体を一瞬で貫いた。痛みに耐えられない“獲物”はどうすることもできず、只そこでじたばたと足掻くしかなかった。

『キャロルは相変わらず凄いですね……。よーし、これ以上暴れられないように私がトドメを刺してあげますです!』

 キャロルの行動に感心の声を漏らしたウィニフレッドは、キャロルの呼び止める声も聞かずに魔法陣を出現させる。そこから自身の武器——“核斬の短剣”(リジル)を取り出し、一匹のヘルハウンドの前足を勢いよく引き裂いた。
 ヘルハウンドの能力を知っているキャロルにとって、ヘルハウンドの身体の一部が引き裂かれるということは、何よりも恐れていたことだった。だからキャロルはあえて肉体を貫くことはしても、引き裂きはしなかった。
 キャロルの最悪の予想通り、ヘルハウンドの引き裂かれた肉体と、肉体から離された前足がもぞもぞと動き始め、形を変えて行き——やがてヘルハウンドは二体となった。

『な、な何でです!?』
『チッ、だから言ったんだ。ひとまず逃げるぞ』

 キャロルはウィニフレッドの腕を掴むと、バッと高くジャンプしてヘルハウンドの頭上を越えた。タッと着地すると、一気に走り出す。

『……ウィニフレッド、お前意外と発想がグロテスクだよな。天然グロテスク』

 ウィニフレッド、自覚してないのかその意味が分からなかったとか。
 ヘルハウンド達は逃げたキャロル達へと方向転換させると、獲物を捕らえる為にその跡を追いかけた。

 ***

「おうわっ!?」

 身体が浮き上がったかと思ったら、今度は一瞬でその場に落ちた。な、何だぁ……?
 落ちた辺りを見回してみると、どうやら調理室ではないようだ。本を貸し借りするカウンター、何冊もの本が入った本棚……三階の図書室!? んな馬鹿な。二階の調理室から三階の図書室に行くには、ワープでもしない限り……ワープ?
 俺の頭に『ワープ』という文字が浮かび、ハッとして一緒に落ちてきた秋月の方を見る。俺と違って墜落はしなかったらしい。

「どうや司? これが超能力の一種“瞬間移動能力”(テレポーテーション)やで」