ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.21 )
- 日時: 2009/12/31 16:44
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常18 死神少女、念動能力を見る。
瞬間移動って、科学×魔術の某ラノベじゃねーか。何とも現実味の無い単語に、俺はふとそう思う。
テレポーテーションという摩訶不思議な現象に対し、エヴァが感想を漏らす。
「確かに凄いわね、私達でいう空間移動系の魔術ってとこ。でもお前を超能力者と認めるには、まだ条件があった筈よね?」
秋月は応えるように頷く。そう、秋月が超能力者と認められるには、秋月が超能力を使ってヘルハウンドを倒す必要があるのだ。
となると、テレポート以外にもテレキネシス系の技が使えなければいけなくなる。あ、テレポートでも何か物体をヘルハウンドの体内に転送させればそれで結果的には良いのか。いや、それも駄目か。ヘルハウンドは引き裂かれた肉からクローンのように増殖していくから、やはりテレキネシス系で気絶させるしかないのか。
と、俺が考え込んでいるうちに、近くから何か呻き声が聞こえる。どうやらヘルハウンドの数体が俺達を見つけたらしい。
「ほら、お前の出番よ。私は此処で見てるから早く行きなさいな」
「言われなくても分かっとるわ」
秋月はにやっと笑うと、右手をヘルハウンドの方へと翳す。
「うちの念動能力(テレキネシス)はお前ら獣が受け止められるほど、やわなものちゃうで」
一瞬、秋月の右手が翡翠色に光る。そして次の瞬間、ヘルハウンドは図書室の外へと押し出され、廊下の壁に叩き付けられていた。
まるで秋月の右手から、強烈な風の渦が吹き出したような……それは秋月が超能力者だと証明するには充分過ぎた。
「どうやエヴァ? これでうちのこと、超能力者やて認めてくれる筈やよね?」
「……ええ、お前が超能力者である事を認めるわ」
これで事態は終わると思っていた。誰一人が油断していた。
さっき吹っ飛ばされた筈のヘルハウンドが、数を増やしてこちらへと乗込んで来たのだ。んな馬鹿な……こんな量どっから。さっきのヘルハウンドは廊下に倒れてるし、増殖してないという事は新しく乗込んできた奴か……!
更には反対側のドアから乗込んできたヘルハウンドが、油断して隙が大きく空いている秋月へと襲い掛かる。くそっ、こうなったらやけだ!
「うおおおおおおおっ!!」
俺は無謀にもヘルハウンドへと突っ込み、本棚にあった辞書のような分厚い本でヘルハウンドを叩く。ヘルハウンドは叩かれただけの筈のなのに、ボキリと背骨が折れた音をして気絶してしまった。
他のヘルハウンド共は、黙って見ているわけにもいかずエヴァが魔法陣から鎌を取り出して、柄の先の部分で勢いよく突いて気絶させてゆく。
無謀な行動をした為か、俺に対し秋月は叫んだ。
「な……何でや! あんた、もし上手く叩けんかったら肉引き千切られてたかもしれないんやで! そんなむぼ」
「んなの知るか!」
俺は思わず怒鳴る。それに秋月は一瞬怯む。
「俺が攻撃しなかったら、お前が肉引き千切られてただろーが! 襲われてる奴を助けて何が悪いんだ?」
頭の中から浮かんできた文字を、口から流れ出すように言う。
秋月は一瞬驚いたように俺を見ると、にっと笑った。
「……そうやな。礼を言うで司」
***
+一通りヘルハウンドを倒し、俺達三人はほっとする。
「司が知り合ったばかりの女子助けるなんて意外だったわ」
「そういや何でヘルハウンドの奴、本でぶっ叩いただけなのに気絶したんだ? 勢い任せにしては威力が大きすぎるような……」
「おそらく竜魂珠がお前の気持ちに反応したのね。まあ今日の調子で竜魂珠の力を使いこなせるようになりなさい」
……よく分からないが、またファンタジーうんたらかんたらか。まあ今日だけはファンタジーに感謝するとする。
するとどこからか、聞き覚えのある声がした。何か色々揉めてるみたいだが……。
『だからヘルハウンドは切り裂くなと言っただろう、お前のせいで大量に増殖したヘルハウンドが図書室に向かった』
『そんなの知りませんですよ! 増殖するなんてどこのクローンですか!』
「それより私を縛るとはどういう事でしょうか?」
この声は電波な使い魔少女二人とシェリルさんか……。どうやら二人がシェリルさんを捕まえたらしい。ていうかさっきの大量のヘルハウンドはあの電波使い魔(=ウィニ)の仕業だったのか……つくづく迷惑な奴らだ。
声は段々と近くなっていき、やがて図書室へとやってきた。予想通り紐で縛られたシェリルさんと、言い合っているウィニとキャロルのコンビだ。
「エヴァンジェリン、今回は諦めましょう。しかし、次こそは連れ戻します故楽しみに」
シェリルさんが噛ませ犬のような台詞を吐いたかと思うと、残ったのは紐だけでシェリルさんはどこかへと消えてしまった。
「……あの人がエヴァを追いかけていた人なん?」
「そうよ、まあ帰ったみたいだから一件落着って奴ね」
秋月とエヴァの話に、俺もうんうんと頷く。
これで一件落着……と思ったのも束の間、キャロルが俺に対して最悪の一言を告げた。
『そういえば司、学校のあちこちが人の群がりで騒がしかったぞ。私達は見えなくなっているから、おそらくヘルハウンドうんぬんかんぬんだろうが「泉井と黒神の奴、授業を抜け出してどこ行った!」とか先生達が言ってたぞ」
エヴァはその重要さがよく分かっていないが、俺の中では一瞬で氷河期を迎えました。身体が凍り付いたように動かない。
そんな俺に追い討ちをかけるように、ウィニが言う。
『理科室の辺りでエヴァ様が喚起したバイコーンが、問答無用で辺りを荒らしたようで先生達が怒っていましたですよ?』
それが嘘であって欲しいと、冗談であって欲しいと思った俺だが、先生と思わしき足音がずしずしとこちらにやってくる。
この後の最悪の想像をして、俺の顔は一瞬で青ざめていくのだった