ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 煉獄から死神少女。 ( No.6 )
- 日時: 2009/12/30 16:40
- 名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)
非日常05 死神少女、客と話す。
***
「エヴァンジェリン=アリットセン、只の死神。宜しく」
『エヴァ様に仕える悪魔の、ウィニフレッド=シンクレアです。宜しくお願いしますです』
「私は泉井紫苑。宜しくねー、エヴァちゃんにウィニちゃん」
七時半過ぎ。紫苑、エヴァ、ウィニ、つまりは電波三人娘が和やかなムードで自己紹介をしている。俺、泉井司はそんな電波の話についていけず、一人で黙々とご飯を口に入れる。
何でだ。泉井家のまともな人間だった筈の紫苑が、何故に死神や悪魔が食卓に溶け込んでいてもにこやかでいられるんだ。
「お兄ちゃんも何か言いなよ」
「司も何か言えば?」
『司さんも何か言ったらどうですです?』
電波三人娘が突如ぐるりとこちらを向く。何だ、その目は。俺に何か話せというのか。お前ら電波の間に俺を入れて、俺まで電波にしようとかそういう計画なのか?
ああ、考えれば考える程頭がぐるぐるしてくる。とりあえず此処は何か言っときゃいいんだよな。
「えーっと、じゃあ……煉獄って何だ?」
俺がそう訊くと、電波共は驚いたような顔をしてこっちを見る。何だよ、普通一般人が『煉獄』なんて言葉知ってるか! ていうか紫苑! お前は知ってんのかよ!
頭の中で突っ込みまくっていると、驚いた顔から今度は冷めた表情で俺を見る電波。……そんなに俺をいじくって楽しいか。
「煉獄っていうのは、生と死の狭間のこと。私達死神は煉獄からこの世に来てるわけ」
“そんなことも知らないのか”という俺を嘲笑うかの表情なエヴァ。くっ……こいつら、黙っていればいけしゃあしゃあと……!
俺が打ち切れそうになって、箸をピクピクさせていた時だった。
突然窓が割れて、硝子の破片が弾け飛んだ。な、何だぁ!?
「あ痛たた……」
これはいったい何の夢だろうか……。長い栗色髪を後ろで三つ網にした少女が、いきなり空から窓に突っ込んできたんだが。
状況の理解できない紫苑とは違い、エヴァとウィニは驚いた表情で少女を見ている。そしていきなり上手く使えていなかった箸を放り出すと、少女の下に駆け寄る。
「シャロン!? どうしてシャロンが此処に……」
シャロンと呼ばれた少女は、くりくりした目を潤ませながらエヴァの胸に飛び込む。すいません、この展開に着いていけないのは俺だけでしょうか。
俺はふと、シャロンとかいう少女が入ってきた窓に目をやる。見るも無残に粉々になった窓硝子が俺の視界に入る。
「おい! お前いきなり何なんだ? 人の家の窓割って……これどうすんだ?」
「は、はう! ごめんなさい!」
俺のことがそんなに怖かったのか、ヒッと怯えた表情で何度も謝る少女。なんかこれじゃあ、俺が悪いことしたみたいで罪悪感が……。
そんな俺にエヴァ、ウィニ、紫苑が冷たい視線を送る。や、やめろ……確かに俺も言い過ぎたかもしれないが、元はと言えばこのシャロンとかいう女が……。
俺が弁解しようとする前に、何故泉井家に突っ込んできたのかとエヴァが事情を聞き始める。
「で、いったいどうしたの? シャロンがこの世に来るなんて、何かあったんじゃないの?」
「そ、そうなの! 私はそれを伝えようと、使い魔のユリアにエヴァの居るこの家に連れてきてもらったんだけど……」
使い魔? 俺が疑問に思ってると、栗色髪の少女の周りを羽ばたく蝙蝠がいた。そして次の瞬間、どっかの黒猫のように煙を纏いながら、ツンツンした桃髪の少女へと変身した。
『ほーんと、シャロンはあたしがいないと駄目なんだから!』
「ご、ごめんね。ユリア……」
そう主人である筈の少女を見下ろしながら威張っている、ツンツンした小柄な少女。立場がまったくもって逆だと思うんだが……。
ずれた話を戻そうと、エヴァがもう一度栗色髪の少女に問いかける。
「話を戻すけど、何があったのよ?」
「は、はうっ。ごめんなさい! それが……この世で魂を回収し終わって煉獄に戻ろうとした時、アストラルに襲われて……。一体だけで、何か変だなって思ったら、普通の人間の形をとるアストラルだったの……。そ、それで『“竜魂珠”はどこだ』って言われて……ううっ」
「……竜魂珠、ね。やっぱこれを狙う奴が出たか……」
あっという間に人間には理解できないような、死神とかファンタジーな奴らしか分からない話に。すいません、俺にも分かるように話して下さいよ。何故か紫苑も「うんうん」とか言っちゃってるし、分かんないの俺だけじゃん。
蚊帳の外にされていた俺だが、いきなりエヴァが俺の方を見て話しかけてきた。
「単独で竜魂珠を奪いにくるとは考えにくいし、何かの組織かもしれない……。で、司。お前は私の契約者(コントラクター)なのだから、勿論協力して貰うわよ」
「この人がエヴァの契約者なの? 私はシャロン=スウィーニー。宜しくね、司君」
『ついでだから名乗ってあげる。あたしはユリア=ハイゼンベルク。あんたがエヴァンジェリンの契約者? 随分と地味な人間ね』
……ユリアとかいう奴の上から目線な態度が、もの凄くむかつくんだが。
ていうかやっぱ首突っ込もうとしなかった方が良かったかも……。何か思いっきり変なことに巻き込まれようとしてるんだけど、俺。
話が段々とワケの分からないところにいこうとしていたが、紫苑がそれを食い止めた。
「まあまあ皆。話は後で。シャロンちゃんもユリアちゃんも、一緒に晩御飯食べよっ?」
「はい」と素直に頷くシャロンと「仕方ないわねっ」と相変わらずツンツンした態度のユリア。とにかく今は、いきなり来た訪問者も含めて晩飯を食うことにした。