ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 煉獄から死神少女。 ( No.9 )
日時: 2009/12/30 16:41
名前: 更紗@某さん ◆h6PkENFbA. (ID: YpJH/4Jm)

非日常08 死神少女、ムカつく。

 ***

「今日の練習はこれで終わり! 皆お疲れ様ー」

 風之宮学院四階にある音楽室。そこには学院の一年生が五人、それぞれギターなどの楽器を弾いていた。五人の中には長い黒髪の少女、伊吹澪もいる。
 伊吹澪は風之宮学院の中でも、今年設立されたばかりの軽音楽部に所属している。小学校は音楽クラブ、中学校は吹奏楽部と音楽関連の部活に所属していた澪だが、高校は音楽クラブや吹奏楽部とはまた違った音楽をやってみたいということで、軽音楽部に入ったのだ。
 顧問であろう黒髪のショートヘアの女性が部活終了を告げると、部活メンバーは一斉に自分の担当する楽器を仕舞い始める。そんな中で、茶髪っぽい長髪をポニーテールにした活発的な少女が、澪に寄って来る。

「お疲れ様澪ー! やっぱ風之宮学院軽音楽部のキーボードは、澪でなくっちゃねー! もうすぐ文化祭だし、頑張ろうね」
「有難う千秋ちゃん。千秋ちゃんもギター頑張ってね」

 話しかけてきたのは同学年で軽音楽部部長、桜井千秋。軽音楽部の中心とも言え、活発で明るく親しみやすい少女だ。澪は知っている人のいない軽音楽部に入り不安だったが、千秋がドジな澪に積極的に話しかけてきてくれ、おかげで軽音楽部の他のメンバーとも仲良くなり、楽しく軽音楽部を続けていられる。
 千秋や他のメンバーは澪に「また明日」と言うと帰り、顧問の先生が帰る時鍵を閉めてくれないか、と音楽室の鍵を渡され、音楽室で澪は一人になった。
 キーボードを準備室に仕舞い、教室の隅に置いてある鞄をとって帰ろうとする。が、その時いつもとは何か違うことに気づいた。

「これって……日本刀?」

 何故誰も気づかなかったのかは分からないが、澪の鞄の上に鞘に仕舞われている日本刀が置かれてあったのだ。それも日本刀の中では大太刀に分類される、長大な刀だ。
 突然の日本刀の出現に澪はどうしていいのか分からず、あたふたと慌て、辺りをぐるぐると走り回る。そしてドジっ娘らしく、音楽室の床に滑って転ぶ。いたたた……と額を抑えながら立ち上がる澪。

「どどどど、どうしよう! 何でこんな所に日本刀が!? 先生に言った方がいいのかな!? でもこんなの持ちながら校舎内歩き回ってたら、日本刀を持ち歩く怪しい人に見られるかも……。どうしようどうしよう!」

 ***

 エヴァの校舎内見学に付き合い、気が付けばもう夕方。あーあ、ほんと勘弁してくれよ……。何でこいつが学校まで来てるんだよ。
 そんな俺の気持ちも知らず、物珍しそうに校舎を見渡していたエヴァにこんなことをいったら、あの巨大な鎌で叩き切られるのがオチだろうか。口は禍の門と言うし、胸の奥底に仕舞って置くとしよう。
 俺とエヴァは只今下校途中。校舎内見学の時のように物珍しそうに街中を見渡すエヴァを、俺は溜め息をつきながら見る。こいつに付き合ってると疲れる……。
 俺がぐったりとしていると、エヴァが異変を察知したかのように辺りをきょろきょろと見る。今度は何なんだ……。
 そうぐったりしている暇も無かった。だって俺達の目の前には、あの……。

「アストラル……! それも結構数が多い。司、竜魂珠が宿っているお前ならあいつらに触ることが出来る。いくわよ司!」
「はっ!? 何だよ竜魂珠が宿っているって!」

 俺の言葉なんて聞きもせず、どこからか巨大な鎌を取り出し、次々と化け物共を切り倒していく。よく分からないが、俺もあいつらに触れるらしい。竜魂珠うんたらかんたらは後で問い詰めてやるとして、今はこいつらを倒すことが先か。
 コンクリートの地面を蹴り、勢いをつけてアストラルに殴りかかる。すると拳は見事に相手の顔面にヒット。アストラルは吹っ飛ばされ、そして消えていった。
 だが勝利を確信したのも束の間。俺が再び構えようと隙の出来たところに、他のアストラルが飛び掛る。や、やべえ……!

「司!」

 エヴァが方向転換して俺を喰らおうとするアストラルを切り倒そうとするが、間に合わない。くそっ……こんなところで……!
 俺がそうぎゅっと目を瞑ったところで、俺を喰らう筈だったアストラルが、エヴァ以外の何者かに切り倒される。エヴァ以外に一体誰が……!?
 後ろを振り向くと、そこには黒服の男とシルクハットにベスト、ボーダーの靴下に茶色のブーツを着用した、エヴァと同じく巨大な鎌を持つ長い茶髪の少女だった。

「……フローレンス=クルック、助けてなんて言ってないんだけど」
「別にー……。ボクはアストラルを見かけたから狩っただけ……。君を助けようとしたワケじゃないよ。君は強いからそんな必要ない……。まあ一つ言わせて貰えば、アストラルに集中し過ぎて契約者さんの方ががら空きになってるかなー……」

 ふわああ、とフローレンスとかいう少女は欠伸をかますと、面倒臭そうに片手で鎌を振り回す。エヴァもアストラルを倒していき、何とかアストラルを全て倒すことができた。
 ん? そういや今こんだけ暴れたのに、誰もこっちを見てないな。ウィニは家だから、一体誰が?

「そこの契約者さん。もしかして“何故誰もこっちを見ていないのか?”とか思ってるー……? それはねえ、ボクの使い魔のおかげだよお……」

 うおっ! こいつはサイコメトラーか! 何勝手に俺の心読んでるんだ!
 まあ突っ込んだところで仕方無い。これ以上突っ込んでおくのは止めて置こう。で、使い魔っつーのはこの黒服の男か……? 黒髪に金色の目。何か猫みたいな感じの色の組み合わせだな。

「ゼルギウス=ベーレントだ。お前、エヴァンジェリンの契約者か……」

 そう言って黒服の男は俺を見つめる。何でこう会う奴は俺のことをエヴァの契約者か何たら間たら言うんだよ。俺ってそんなショボく見えるのか? 死神とかと違って普通の人間だから、仕方ないだろうけど……。
 俺と黒服の男が何故か見つめ合っているのをよそに、エヴァとフローレンスっつー少女が何やら話している。それにしてもエヴァの顔、何だか怖いんですけど。

「フローレンス=クルック……何で此処にいるの? 相変わらずどこかムカつくのは変わってないし……」
「うーん、ちょっとあるとこから盗んできた神器が、勝手にどっか行っちゃってさあ……。ここら辺にあるみたいだから、ゼルと一緒に探してたんだけど……。でかい日本刀、見かけたら教えてねえ」

 「他探すよゼル」と少女が言うと、黒服の男は少女の方に向き直り、何処かへと消えていってしまった。今神器とか聞こえたが、魔術の次は神器か。どんだけファンタジーに侵食されてるんだこの世界は。三次元ニ次元化でも進んでいるのか、怖いもんだ。
 おっと、俺はこんなことを考えている場合ではない。とっとと竜魂珠とかいうのについて、エヴァに問い詰めてやらないと。

「おい、さっきの竜魂珠が俺に宿っているうんたらかんたらって何だ。お前俺に何をしたんだよ!」

 するとエヴァは面倒臭そうにはあ、と溜め息をつきながら説明を始める。

「竜魂珠っていうのは幻獣——つまりその代表であるドラゴンの力が宿った宝玉のことよ。その力を上手く使えば、魔術師や死神が何百人、何千人と取り囲んだところで瞬殺できる。代々煉獄では幻獣を最も上手く使える者——竜の巫女に竜魂珠を護る為に継承されていく。その竜魂珠は、死神が契約すると共に死神と人間に繋がりが出来るから、ごちゃごちゃと色々な力が宿っている死神より、何の力も宿っていない人間へと移り宿る。お前が今アストラルに攻撃できるのもそのおかげよ」

 ……何だそりゃ。理屈が全然分からないというか、ファンタジー用語多すぎて着いていけません。何で俺の身体にそんな面倒臭いもんが宿るんだ、俺の身体に障害が起きたらどうするんだコノヤロー。
 エヴァは話し終えると、また一つ溜め息をついて呟いた。

「まあ竜魂珠がこっちにあるのはいいとして……。まさか神器がこの近辺にあるとはね。面倒臭いことになりそう」